拉致被害者の兄である蓮池透氏がヒステリックといわれてもしかたない罵詈雑言を、安倍首相に対して浴びせているのに対して、本人の蓮池薫氏のほうは、実にバランスのとれた貴重な意見を朝日新聞紙上で述べておられることは、すでに『蓮池薫氏の「100点満点」の北朝鮮解説が朝日新聞に掲載』で紹介した通りである。
その蓮池氏が今度は『週刊新潮』で米朝会談について論評されているので、紹介しつつ解説したい。まず、蓮池氏は米朝会談についてこんなことをいっている。
①非核化が具体性を持たなかったのは信頼醸成から始めなくてはならなかったのだから悪くない
②トランプが拉致について提起したことは、その重要性を金正恩に意識させ、トランプにもインプットされたということだから意味がある。また、トランプが提起したので、日本が拉致が未解決であることを理由に経済協力を拒否しても批判されない。
③「安倍3選」など政治的に利用されても結果を出してくれれば構わない。
④北朝鮮は中国への過度の依存から抜け出たいと思っているので、日本との関係強化には大きな意味がある
蓮池氏は横田めぐみさんの生死について、「生きているとは断言はできない」が、「1993年にめぐみさんが入院のために自分たちの近所から消えた後も、娘のヘギョンさんや夫はしばらく同じところにいて付き合いがあったし」、「その後も2002年の帰国まで音信あったと明かし、そういうなかでめぐみさんが死んだと聞かされなかったことは不自然」であり、そういう意味で希望はあるとしている。
めぐみさんの生死については、一方で亡くなっていると断言する人もおれば、必ず生きておられるという人もいるが、いずれも極端すぎて真摯な議論たのためには有害である。「合理的に考えてチャンスは十分にある」という蓮池氏の説明が腑に落ちる。
拉致問題で大事なことは生きておられる方の生還を実現することであり、万が一、本当に亡くなっておられるかたがおられたとしたら、納得できる説明を聞くことである。日朝関係を将来ともに悪くすることに使うとか、復讐は目的ではないはずだ。
また、長く北朝鮮で暮らされた蓮池氏が「北朝鮮が中国依存を嫌がっている」と指摘されているのは、貴重だと思う。
逆にいうと、いま、習近平はトランプの大胆なアプローチの結果、劇的に米朝が近づいて、鴨緑江に米軍がやってくるのを心から恐れているはずだ。いわば、北朝鮮のウクライナ化である。