今月21~22日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20蔵相・中央銀行総裁会議では仮想通貨についても議論されたが、会議後発表された共同声明を読むと、いかに既存の権威が仮想通貨という全く新しいものに対して、うさん臭い目で、警戒心を持って接しているかが、よくわかる。
共同声明によれば、仮想通貨の基礎となるテクノロジーは金融システム、ひいては経済全体に大きな利益をもたらすとして、ブロックチェーン技術への期待が明確に表明された。これは、3月の会議の後の記者会見で日銀の黒田総裁が述べた趣旨と同じものであり、仮想通貨に否定的な中国もこの点に関しては異論のないところだ。
一方、仮想通貨そのものに対しては、通貨としての属性が欠けているとして、仮想通貨と呼ぶのではなく仮想資産という呼び方をしている。これも3月のG20首脳会合の時の仮想通貨に対するスタンスと同じものである。
貨幣の属性ないし機能は、価値の尺度機能、価値の保存機能、支払い手段の機能といわれるが、G20では仮想通貨がこれらの属性・機能を持たないと決めつけているのだ。しかし通貨と呼ぶか資産と呼ぶかは、それほど厳密に通貨の属性に照らして決められているものではない。
確かに現状の仮想通貨に対する需要は、もっぱら投資対象としての需要であり、仮想通貨で支払いを行うことは少ない。しかし、仮想通貨の今後の発展の可能性にかんがみると、これはあまりに慎重すぎる態度ではないだろうか。
仮想通貨とよく比べられる「金」は、カナダやオーストリアでは法定通貨である。日本でもかつて金貨が発行されたが、これも法定通貨である。これらの金貨は支払い手段としてよりも、価値の保蔵手段としての役割が大きいというか、専ら価値の保存機能ないし投資の対象である。
日本の10万円金貨は、額面を金の価値以上に設定したため大量の偽造貨幣が製造されてしまったことをお覚えの方も多いだろう。通常はカナダのメープルリーフ金貨でもオーストリアのウィーン金貨ハーモニーでも額面は貨幣に使われている金の価値よりも大幅に低く設定して偽造を防止している。
例えば1オンスのウィーン金貨ハーモニーの表面には100ユーロ(現在の為替相場では約13,000円)と刻印されているが、その価値は20万円以上になる。また、同じ1オンスのメイプルリーフ金貨の額面は50カナダドルだから額面は現在の為替相場では約4000円にしかならない。このためこれらの金貨を額面でモノやサービスを購入するのに使うと大きく損をしてしまう。
つまり、これらの金貨は支払い手段として使われることを前提にしておらず、投資目的等で保有することが前提となっているのである。しかしそうだとすれば、仮想通貨と金とどこが違うのだろうか。相場の振れ幅は歴史が浅い分だけ金よりも大きいが、価格が変動するという点においては同じである。中長期的にインフレで必ず価値が失われていくドルや円といった紙幣への対抗軸という意味でも、金と仮想通貨は同じであると言えよう。
なお、G20蔵相・中央銀行総裁会議では、仮想通貨は消費者・投資家の保護、市場の完全性、脱税、マネーロンダリング、テロ資金調達といった面で問題を生じさせているとして、今後、マネーロンダリングの防止をはじめ、様々な角度から規制を適用することを視野に入れている。
確かにこれらの問題に対しては、早急に対応策を講じていく必要があろう。しかし、これらの問題があるから仮想通貨の通貨性を否定するというのではなく、これらの問題に対処して仮想通貨を育てていくという姿勢をG20諸国がとることを期待したい。