「夜の神」の時代がやってくる

時代が変わる時、その前兆がみられ、感じられるものだ。旧約聖書「アモス書」第3章には「まことに主なる神は、そのしもべである預言者にその隠れた事を示さないでは、何事をもなされない」という聖句がある。時代の移り変わりの時、必ずそれを暗示する何らかの出来事、現象がキャッチできるというわけだ。

天の川銀河の中心部に存在する「いて座A」にあるブラックホール・バウンティー NASA提供、2018年5月9日

ひょっとしたら、現代のキーワードは「ダーク」(dark)ではないだろうか。その意味するところは、光の反対の「暗闇の世界」、「隠されている世界」、可視の反対の「不可視の世界」を意味し、それらの世界の存在やその動向が明らかになってくる時代に入ってくるということだ。

インターネットで私たちは多くの知識・情報に接する機会が増えたが、最近興味深い話を聞いた。「私たちが知っている知識は全体の4分の一程度に過ぎず、4分の3はダーク・ノレッジ(Dark Knowledge)と呼ばれ、一部の学者や専門家たちだけが知っている内容で、公開されることがない知識」というのだ。

ダーク・ノレッジを所有する人々、学者や専門家は企業や一部の機関から依頼されて研究し、その研究結果を依頼主に報告する。依頼主は主に軍事と先端工業分野だ。彼らが知った知識は一般の社会には公開されない。フィードバックされないから、一般の人には知られない。その非公開の知識量が全体の4分の3を占めるというのだ。

これが事実ならば、通常の知識人が知っている知識は最高でも全体の4分の1に過ぎず、4分の3は全く知らないということになる。表現は少々きついが、我々は全く知らない人々ということになる。

例えば、米国ではUFO(未確認飛行物体)の存在について議会を巻き込んだ議論が飛び出すが、UFOファンには政府や一部の指導者は未公表のダーク・ノレッジを有している、という疑いが強い。

科学にはデイ・サイエンス(Day Science)とナイト・サイエンス(Night Science)があることはこのコラム欄でも紹介した。「昼の科学」と「夜の科学」だ。科学には客観的、論理的な知識を土台としたデイ・サイエンス(昼の科学)と、主観的で感性の世界を追及するナイト・サイエンス(夜の科学)がある。そして今後、後者の「夜の科学」の発展が予想されるというのだ。

多くの科学者は、「世界が偶然に作られたとは到底考えられない。それを構想し、創造したより高い存在を感じざるを得ない」という。“サムシング・グレート”だ。宇宙物理学者は、「人間は宇宙の秘密のほんのわずかしか解明していない。すなわち、ほとんどまだ分からない」と告白する。

宇宙には「質量はあるが、光学的には直接観測できない暗黒物質(Dark Matter)」で満ちている。また、ブラックホール(Black hole)も存在する。暗黒物質がいかなる性質、構造となっているかほとんど知られていない。宇宙物理学者は「ダークマター、ダークエネルギーを解明しないと宇宙の謎を解くことができない」と確信しているほどだ。

文明が発展し、光が生まれてきた。暗闇(Darkness、Finsternis)の世界を照らしてくる光は文字通り、人類の希望だった。地球が太陽の周囲を公転するのは決して偶然のことではないだろう。光と熱を放出する太陽は地球にとって生命の印だった。その太陽が遠い将来、膨張して消滅することが予想されている。

太陽の終焉が予想されだした頃から、ダークの世界が再び浮上してきた。決して偶然のことではないだろう。太陽に象徴される「光」の時代が終わりを告げ、これまで隠されてきたダークの世界(暗闇の世界)がその存在を明らかにしてくるというわけだ。ダークノレッジ、ダークマター、ナイト・サイエンスなどの表現はその前兆を告げているのではないか。宗教的に表現すれば、「昼の神」の時代から、「夜の神」が主導する時代圏に入ってきた、といえるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。