日本のローマ・カトリック教徒にとって来年は歴史的な年となるかもしれない。このコラム欄で既に紹介したが、あの南米出身のローマ法王フランシスコが日本を訪問する可能性が高まってきたからだ。81歳の高齢となった法王は根っからの日本好きだ。聖職者生活を始めた時から日本への宣教を夢見てきた。訪問する側と迎える側がウエルカムだから、1981年2月の故ヨハネ・パウロ2世以来38年ぶりのローマ法王の訪日はきっと多くの感動と出会いをもたらすだろう。
と、ここまで書いてきてちょっと心配なことを思い出した。法王の記念ミサで参加する信者の数が少ないことではない。日本ではカトリック信者数は人口の1%にも満たないことを親日派のフランシスコ法王が知らないはずがない。ミサ参加数が大きな問題となることはないだろう。信者の一人、麻生太郎副総理兼財務相が法王の訪日を盛り上げてくれるだろう。
それでは何が心配かといえば、欧米教会を目下席巻している聖職者による未成年者への性的虐待問題が日本にも波及することだ。確かに、この問題は厄介だ。ローマ法王の訪日前に聖職者の性犯罪の犠牲となった日本人信者の話が週刊誌などに大きく取り上げられれば、歓迎ムードに水を差すことになるからだ。しかし、今回はその話ではない。日本でも急速に市民権を獲得してきた性的少数派(LGBT)問題だ。
日本の同性愛者やLGBT支持者はローマ法王の訪日の際、「同性愛者の認知を」という働きかけをメディアを通じてするのではないか。フランシスコ法王は歴代の法王の中でもリベラルな思考の持ち主と受け取られていることもあって、法王から同性愛容認発言を引き出せば大きな成果となるからだ。
フランシスコ法王は過去、多くの脱線発言があった。同性愛問題でも法王就任の年(2013年)、「同性愛者にああだ、こうだといえる自分ではない」と述べ、同性愛者に対し寛容な姿勢を示したことがある。少なくとも、同性愛を認めない前法王ベネディクト16世とは明らかに違っていた。
フランシスコ法王はバチカン内に同性愛者がいることを認めている。法王は2013年6月6日、南米・カリブ海諸国修道院団体(CLAR)関係者との会談の中で、「バチカンには聖なる者もいるが、腐敗した人間もいる。同性愛ロビイストたちだ」と述べている。
実際、バチカン法王庁の中核、“カトリック教理の番人”と呼ばれる教理省(前身・異端裁判所)に従事していたバチカン高官自身が同性愛者であると告白し、その暴露本を出版したことがある。同本はバチカン内部に渦巻く同性愛問題を体験に基づいて記述したものであったから、大きな反響を呼んだ(「同性愛者の元バチカン高官の『暴露』」2017年5月11日参考)。
興味深い点は、フランシスコ法王は今月1日、ローマで発表されたインタビュー集の中で「教会には同性愛者を迎え入れる場所がない」と断言し、「同性愛性向の聖職者は聖職を止めるべきだ」と主張。そのうえで「現代の社会では同性愛性向が流行している。その影響は教会内まで及んでいる」と警告を発している。すなわち、フランシスコ法王はここにきて同性愛問題ではっきりと「ノー」と言い出しているのだ。 参考までに、カトリック教会の伝統的な教義では「同性愛は罪」と久しく受け取られてきた。その意味で、フランシスコ法王の発言は決して新しいものではなく、原点に返ったというべきだろう。
これ以上説明する必要はないだろう。フランシスコ法王は同性愛問題に対し過去の法王と同じ立場を明確にしてきたのだ。法王曰く「家庭は男性と女性によって構成される」と指摘し、同性婚を認めない姿勢を明らかにしている。
南米出身でイタリア人の血をひくフランシスコ法王を「リベラルで話が分かるローマ法王」と誤解している日本人がいるならば、「確かに、フランシスコ法王は笑顔が絶えず、冗談も飛び出すが、その考えは歴代のローマ法王とは変わらない」という事実を忘れないでほしい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。