フランスでは燃料税の引き上げに反対する「黄色いベスト」の暴動が起こり、マクロン政権は増税の実施を延期した。化石燃料に課税することは地球温暖化対策として合理的だが、どこの国でも増税は不人気だ。特に間接税は「痛税感」が大きいので、こういう情報弱者の反発を受けやすい。
日本でも、いまだに消費増税に反対する人が多い。それも左翼ではなく、ネトウヨ系だ。今は亡きリフレ派が「うまく行くはずのリフレが失敗したのは2014年の消費増税のせいだ」と責任転嫁し、そこから「反消費税」に転進したらしい。リフレ派にはそれなりに理論があったが、これは理論の体をなしていない「どマクロ経済学」だ。
彼らがよくいうのは「財政支出を増やすと景気がよくなって税収が増える」という話だが、これは大学1年の教科書で習う短期の理論だ。教科書を最後まで読めばわかるように、こういう効果は財政支出が終わったら消える。民間投資がクラウディングアウトされて潜在成長率が下がり、残るのは長期停滞と政府債務だ。それが日本の現状である。
情報弱者には、そういう長期的な因果関係がわからない。政府債務の最大の原因は、社会保障特別会計の赤字だ。賦課方式の社会保険料は税と同じで、健康保険料(介護保険料を含む)は11.5%、厚生年金保険料は18.3%。社会保険料は約30%の国民負担だが、それでも大幅な赤字だ。
マクロ経済的にみると社会保険料は66.3兆円だが、これでは膨張する社会保障給付をまかなえない。その赤字を埋める45.4兆円の税源の一部が消費税だが、17.2兆円にすぎない。消費税率を20%に上げても、赤字は埋まらない。日本の財政危機は、景気対策で解決するような規模ではないのだ。
これを埋めるために「見えない税」である社会保険料を増税し、その穴を(もっと見えない)国債で埋めたのが安倍政権だ。それは情報弱者の「痛み」を最小化した点では賢いが、日銀の財政ファイナンスはもう限界なので、国債以外の財源が必要だ。安倍政権が消費税率を10%超に上げることは考えられないので、その代わりの選択肢は次の3つだろう。
1.直接税率を上げる
2.社会保障給付を抑制する
3.社会保険料を上げる
1のうち所得増税は、政治的には困難だ。法人税率はもっと下げないと、アメリカの20%に対抗できない。上げるなら資産課税だろうが、相続税は資産逃避を起こしやすいので、逃げにくい固定資産税が合理的だ。しかしこれは政治的に困難で、地価税は休眠してしまった。
望ましいのは2だが、これも政治的には困難だ。年金は2030年代には年金基金が枯渇するので、支給開始年齢を70歳に上げるという話も出ているが、医療は制度が複雑で政治の手に負えない。社会保険料は天引きで痛税感が少ないので、安倍政権は3を選ぶ確率が高い。
これはサラリーマンと企業から、老人への巨額の所得移転である。「シルバー民主主義」などとあきらめている限り、政治は動かない。「黄色いベスト」は(よくも悪くも)100万人程度で政権を動かした。日本で黄色いベストを着るべきなのは、社会保険料を負担するサラリーマンである。