自民党改憲案の問題点

今年の参院選挙で与党が三分の二を占める可能性があり憲法改正がやや現実味を帯びてきたので自民党が平成24年に公表した改憲案に目を通してみた。以下はその所見の一部。

第一条で天皇を元首と規定する。明治憲法にならったのだろう。ただその他の文言は現行憲法と同じであるため明治憲法への回帰とも言い切れずその意図がわからない。

第三条で国旗と国歌(君)を規定する。国旗は日の丸で問題ないが、国歌が君が代でいいのか。現行憲法、そして自民党の改憲案も日本国の政体はほとんど共和制に等しい。君が代は君主制として天皇の御代が永続するように願う歌であるので共和制にふさわしいとは思えない。

第九条 日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段として用いない。

基本的に現行規定と変わらないが、英語直訳調からこなれた日本語になっている。
2項(削除)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。
新設 前項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない。

この修正は至当であろう。そもそも自衛隊の存在によって60年以上本条2項違反状態が続いたのでこの修正は改憲というより現状を追認しただけとみることもできる。

第四章 国会
現行の二院制を維持している。この20年衆参のネジレに悩まされた経験を忘れたのか。二院制を維持する理由がいくら考えても分からない。今参議院は衆議院選挙に落ちた人のためのセーフティネットになっている。
但し憲法改正にはその三分の二以上の賛同が必要であるため参議院を廃止することは絶対にできない。従って衆参合同による一院制の実現が現実的だ。これなら参議院議員のステータスがむしろ上がるので反対する議員はいないだろう。一院制の実現と議員定数削減を絡ませる必要はない。議員定数削減など些些たる問題だ。
一院制が実現できれば憲法改正に必要な議員数は従来通り三分の二以上でいいだろう。尚自民党の改憲案ではそれが三分の二から過半数に緩和されている。
二院制を維持するのであればせめて民意を反映しやすくするために参議院の半数改選をやめて総選挙とすべきだ。

明治憲法では貴族院という名称から伺える通り、その議員の選任は公選ではなかった。そのため衆議院議員だけ代議士と呼ばれたが、衆参両院とも公選議員からなる現在、参議院議員を代議士と呼んでも差し支えない。

第二十九条 財産権は保障する。
2項 財産権の内容は公益及び公の秩序に適合するように法律で定める。この場合において知的財産権については国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3項 私有財産は正当な補償の下に公共のために用いることができる。

現行規定より財産権の公益との調和を強調して公用買収しやすくしているのは、至当であろう。
税制と「財産権の保障」は微妙な問題だ。高額所得者或いは資産家が半分を税金(所得税又は相続税)として召し上げられても財産権は保障されていると言えるだろうか。
過重な累進税率は憲法が保障する財産権を侵害するという違憲訴訟があってもおかしくない。もっともそうした違憲訴訟で勝てる可能性はゼロであるため高額所得者や資産家は別の節税を考えるだろう。

第二十四条 家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は互いに助け合わなければならない。

これは現行法にない、いかにも自民党案らしい規定だ。戦前の教育勅語が一部ここで顔をだしている。憲法に説教がましい規定を設ける必要があるのかという批判はあり得る。

(第二十三条) 学問の自由はこれを保障する。
これは現行規定と同じ。学問の自由の系として大学の自治が演繹できるとするのが通説であるが、「学問の自由」に相当する英文が「academic freedom」であってみれば、もしかしたらGHQの起草者は端的に「大学(academy)の自由」を規定するつもりではなかったか。誤訳の可能性もある。それにしても明治維新後、政府によって国家の制度として作られた大学において(私立大学はひとまず措く)学問の自由はともかく、大学の自治が主張されるのはいかなる論理か。大学の自治が日本では教授会の自治として運用されているがそれでいいか。 続く

青木亮

英語中国語翻訳者