NRI此本臣吾社長監修、森健・日戸浩之著、「デジタル資本主義」、つづき。
1. 消費者余剰、総余剰が重要であること
に並ぶもうひとつのポイント、
2. 資本主義が変容し、データ主導・知識生産性社会となること
について。
2. 資本主義の変容について。
シェアリングエコノミーはモノのサービス化を進め、生産者余剰を下げ、経済を縮小させ得る。雇用・投資抑制的な性格を持つ。
本書はそう説きます。
同意します。シェアエコは成長戦略の文脈で捉えるのは危険であり、福祉増強=消費者余剰の観点で推進すべきと考えます。
シェアエコが代表する経済は全ての活動がネット=データ主導となります。
それは労働をインプットして付加価値を生む「労働生産性」中心の社会が、データをインプットして付加価値を生む「知識生産性」の社会になること。
本書はそうした「デジタル資本主義」を展望します。
現在80億台が連動するIoT機器が2020年には500億台になり、1年で生んでいた情報量が1時間で生まれるようになる。
無論それは社会経済の姿を根本から変えるでしょう。
恐らくAIが組み込まれる社会経済もまたドラスティックに変容するでしょう。
本書はその技術主導による未来は国・地域により多様な姿になると想定します。
経済・社会・歴史はローカルなものだという見方です。
同意します。
日本は日本型の技術消化と社会構築をするに違いありません。
これまでもそうであったように。
気になるのは、現在の世界的な長期停滞の要因をイノベーションの低さに求める説を説明するくだりです。
21世紀のイノベーションは、電気、航空機、自動車、家電など20世紀の発明に比べ小さく、未開拓の土地や未教育の子供がいた過去に比べ容易に収穫できる果実が少ないとするものです。
それはITやAIのインパクトをどれほど本質的なものと評価するかによって見解が分かれるのではないでしょうか。
ぼくはこの21世紀の変革は喉元を過ぎたばかりであって、消化され養分が回るのはこれからだと考えます。
この後、人類は体質を変え、本書の指摘するデジタル資本主義に至るのではないかと。
展望として、本書は1.資本主義が終焉する、2.産業資本主義が高度化する(インダストリー4.0)、3.デジタル情報が価値創造の源泉となる新タイプの資本主義が生まれる、の3種を挙げ、第3の説を採ります。
ぼくもそうなる予感がする、というか、そうなると楽しいと考えます。確証はありません。
ただ、格差を本質とする資本主義と平等を旨とする民主主義の「強制結婚」が解消される、という分析にはざらつきを覚えました。米英で資本主義の粋であるグローバリゼーションが民主主義によって否定されたことは、もはや新しい資本主義と政治との折り合いを求める事態に踏み入っていることを示します。
本書はデジタルが資本主義と民主主義のバランスを取り持つ仲介役を担うことを示唆しています。
資本主義を変容させるデジタル技術は、ソーシャル化はじめ政治と民衆の関わりも変容させつつあり、その両者が融和する方向に作用するとよい。
ただそれはまだ形が見えているわけではなく、願望に留まりましょう。
本書は、デジタル化の進展と成熟に身をおいて経済を分析しながらも、そのインパクトが歴史的な強大さをもつため、まだ人類がその効用を測り得ていないことを示しています。
ぼくが長い間もやもやしているのも、デジタル化とは何かという軸が未だ背骨として作れていないせいで、その掻痒感を共有してくれる書です。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。