今回の米朝首脳会談は決裂したが、米朝対話が途切れたわけではない。
北朝鮮の核問題をめぐる交渉は1990年代初から今日まで【緊張→対話(再開)→対話決裂→緊張】の悪循環を続けているが、今回は、まだ「対話決裂」の過程に入ったとは言えない。米国は北朝鮮の非核化実現に向けて対話と制裁を継続する長期的なスタンスを維持しているからだ。
米国との貿易戦争で致命的な打撃を受けている中国にとって、米朝が再び緊張関係に戻って共に中国に擦り寄ってくる状況となることが最良のシナリオだろう。
しかし、米朝両国は中国の本音を見抜いており、第2回会談の決裂にもかかわらず、極度の緊張状態には至らず、互いに態勢を整えながら政治的利益を最大化できるチャンスを掴もうとするはずだ。
今回の会談が決裂した要因は、北朝鮮が寧辺の核施設だけ廃棄する見返りとして全ての(北朝鮮は“一部の”と主張)経済制裁の解除を要求したことだ。ウラン濃縮施設等の廃棄が含まれていない北側の提案は米国が絶対受けいれられないものだった。
トランプ大統領は国内でロシアの大統領選関与疑惑や自らのスキャンダルなどによる厳しい世論に直面している。だからこそ、安易な妥協による合意でなく、正しい合意のために敢えて席を立ったことは、幸いだった。
北朝鮮の非核化は米国だけではなく、国連を始めとする国際社会が一丸となって取り組む課題だ。グローバル化時代を迎えた今日、北朝鮮は従来のような“見せかけの非核化”では国際社会の目を欺けないのだ。
金正恩政権にとって核兵器は長期独裁政権を支える心強い味方ともなるが、使い方を誤ると、政権を崩壊させる時限爆弾にもなり得る。
筆者が前回述べたように、トランプ氏は制裁を継続して北朝鮮の特権層が厳しい経済難に耐えられず、金正恩政権に背を向けて体制を崩壊させる「レジームチェンジ」まで視野に入れている。ただ、いつまでも待つことはできない。その目安が次の大統領選挙だ。トランプ氏が選挙勝利のために、対北外科手術的攻撃(電力、通信、電算網を麻痺させ、軍施設を精密打撃する限定的攻撃)に踏み切る可能性は否定出来ない。ブッシュ大統領父子が湾岸戦争とイラク攻撃に踏み切った時、支持率は90%近くまで跳ね上がった。
金正恩委員長は核を手放さずに時間が経てば経つほど政治生命が危なくなるという事実を肝に銘じるべきだ。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員)
※本稿は『世界日報』(3月5日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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