参院選でまさかの政党要件獲得をして驚かせた「N国」こと、NHKから国民を守る党の動向は、これまで黙殺してきた新聞、通信、テレビなどの大手マスコミもある程度、取り上げざるを得なくなるだろう。「旬」の人になった立花孝志代表は、公約のNHKのスクランブル化を“取引材料”にして安倍政権への改憲への賛意を示すといういっぱしの「第3極ヅラ」を見せて、早くもノリノリのようだ。
NHK改革なら改憲賛同 N国党代表、ネット番組で | 2019/7/24 – 共同通信
だが、もう一つこの記事は、ネットメディアの多くの関係者(重鎮どころもを含め)を違う意味で呆れさせている。書き出しのこのくだりだ(太字は筆者)。
参院選で議席を得て政党要件を満たした「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表は23日、インターネット番組に出演し、憲法改正の国会発議に条件付きで賛同する意向を示した。安倍政権が受信料を支払った人だけがNHKを視聴できる「スクランブル放送」へとシステムを改めることを交換条件として掲げた。
立花氏の発言を報じたソース元が匿名なのだ。そう、かつて新聞が例えば、文春や新潮、フライデーなど週刊誌が先行した話題を取り上げる際に「一部週刊誌」、ひどい時には「一部報道」と名称を“抹殺”し、週刊誌各社が長年に渡り、抗議文を送ってきた。そうした闘いを経て、近頃の文春砲の後追い報道では「●日発売の週刊文春が報じた」というようにソースを明記するようになっている。ネット時代になって、週刊誌がこの顛末を可視化したことも大きいだろう。
しかし、それでも共同通信の“カースト意識”は相変わらずのようだ。週刊誌の次に存在しなかったことにされているのはネットメディアだ。今回、立花氏の発言を報じたの「インターネット番組」はアベマTVのAbemaPrime。そう驚くことに、共同通信は同じ記者クラブメディアのテレビ朝日が出資するアベマTVの番組ですら、ソースを明記しないゴリゴリの「特権意識」をお持ちのようだ。
もし、これがテレビ朝日本体の番組であれば「テレビ朝日の番組」と最低限のソースは明記しただろう。テレ朝系のBSやCSなど「放送」で立花氏が発言した場合でも、最低限、局の名前は記載したはずだ。
テレ朝系のネットテレビですら、この扱いだから、独立系でかつ「右翼」メディアに位置付けられているDHCテレビなどはもってのほかだ。自民党の萩生田幹事長代行が「消費増税延期もありうる」と発言した際、DHCテレビの「虎ノ門ニュース」について、いくつかの新聞報道は、番組名はもちろんDHCの社名すら報じず「インターネット番組」としか書かなかった。
安倍首相の側近である萩生田氏の発言はダブル選挙に向けた世論観測の意図があったのではと憶測が立ったほど、それなりに重要な政局ニュースだったにも関わらずだ。いや、“下賎”なネット番組に重要な発言を「抜かれた」からこそ無視したのではと思ったくらいだ。
アゴラもかつて蓮舫氏の二重国籍問題を追及した際、「ネットメディア」と匿名で書かれ、ひどい時には「ネット」とまるで匿名掲示板と同列に扱われたこともあった。宿敵の朝日新聞は「アゴラ」の名前こそ書いたが、八幡和郎さんのことは「元通産官僚の大学教授」と匿名扱い。朝日は、よほど“穢らわしく”思ったのだろう。
最近も、毎日新聞が原英史さんが、新潮社フォーサイトやアゴラで反論記事を載せた際、そのこと自体を伝えたまではいいが、毎日新聞は原さんの発表媒体を「ネットのニュースサイト」と匿名報道した。
特区WGの原座長代理「記事は虚偽と間違い」 ネットのニュースサイトに見解 – 毎日新聞
毎日新聞といえば、取締役の小川一氏はインターネットメディア協会の発起人に名を連ねており、あまりの言行不一致に思えた。怒りを覚えた筆者は小川氏にツイッターで苦言を呈し、レスをもらったこともあった。
小川さん@pinpinkiri 記事の妥当性は法廷で決着つけてもらえればと思いますが、原さんの抗議文を掲載したのが「インターネットのニュースサイト」って新潮社に失礼では?小川さんがいくらデジタルブランディングしても社会部記者がネット媒体を蔑んでる本音が出てませんか?https://t.co/NQBwvnWxSt
— 新田哲史 (@TetsuNitta) June 12, 2019
もちろん、そんなつもりはなかったはずです。いただいたご指摘は現場に伝えます。ありがとうございました。
— 小川一 (@pinpinkiri) June 12, 2019
筆者も自分の記事すべてで媒体名を明記しているとは限らない場合もあるが、原則的にソースは明示している。貼るURLのリンクもヤフーニュースやブロゴス等の配信先プラットフォームではなく、オリジナルメディアを原則引っ張っているのはコンテンツ制作者に配慮しているからだ。
もっとも、紙媒体、特に新聞は先のカースト意識に加えて、文字数の制限がキツいことは新聞記者経験者として一定の理解はする。ニュースの本質的な発言部分を優先するなら、ソース元のネット媒体のことなど、極力最少の記述にしたい思いもわかる。しかし、時代は変わった。選挙戦の最中、まさに新聞に黙殺されたN国が議席と政党要件を得たことでネットはもう侮れないではないか。遅きに失したと言われようと、ソースの明示は学生の論文でも基本だ。共同通信の政治部だけでなく、他のマスコミの皆さんも考えどころではないか。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」