きのう古賀茂明さんにBLOGOSでインタビューした。彼の『日本中枢の崩壊』は今アマゾンで9位、16万部も売れたという。「現役キャリア官僚の内部告発」というのが興味を引いたのだろうが、実は内容はそれほどセンセーショナルなことが書いてあるわけではない。公務員制度改革を政府の方針通りやろうとしたら、むしろ政府のほうがぶれて彼を左遷したという話だ。
この本についての霞ヶ関の意見は二通りある。「よく言ってくれた」という支持と「役所の肩書きで書くのはおかしい」という批判だ。古賀さんもそれは承知しており、最初は肩書きも出さず、「これは個人としての意見です」と断ったそうだが、テレビ局が「肩書きなしでは困る」というので、最近は経産省の肩書きをつけるようにしたそうだ。
公務員が公的に発言するときは、所属官庁を代表していると解釈されるので、その言論には制約がある・・・と一般には思われているが、実はそういう法律はおろかガイドラインもない。だから古賀さんがワイドショーで何を発言してもかまわない。もちろん普通は所属官庁の政策を批判すると左遷されるので自主規制が働くが、古賀さんのように「覚悟」を決めれば何でもいえる。
ただ彼は特殊ケースで、役所の中では改革に限界があると思った人は辞めてしまう。それはそれでいいのだが、辞めてもつぶしがきかないので、ほとんどの人は役所に残って辛抱を続ける。その結果、自由にものが言えなくなって役所の中が暗くなり、組織の劣化が進む。特に若手の官僚にはフラストレーションがたまっており、グループをつくって『霞ヶ関維新』などという本を書いたりするのだが、この著者も役所を辞めてしまった。
他方、民主党の惨状をみれば明らかなように、まともな政策もなしに大衆迎合のマニフェストを掲げて政権についても破綻してしまう。大事なのは政治学や経済学の知識だけでなく、政策を法案化して実施するまでの合意形成などのインプリメンテーションだ。そういう技術をもつプロフェッショナルな政策スタッフがいないと、民主党は立ち直れないだろう。これは自民党も同じで、今のままの自民党が次の選挙で圧勝しても、昔の官僚丸投げの政治に戻るだけだ。
つまり官僚機構は風通しが悪く、異論が圧殺されるため不満がたまる一方、政党は霞ヶ関の圧倒的な実務能力に対抗できないため、政治が迷走を続けているのだ。この状況を打開するには、公務員制度を改革して政策スタッフの政治任用を増やす一方、そのための人材プールとなる政策シンクタンクを育てるしかない。
かつての経済産業研究所は、そういうシンクタンクをめざしたのだが、当時の経産省の北畑官房長につぶされてしまった。その失敗の原因は、政府の資金で設立したことにある。あまり注目されていないが、15日に成立したNPO法の改正で、非営利シンクタンクが少しはつくりやすくなるかもしれない。