新型肺炎について、前回に引き続いて、3月1日現在の認識をまとめます。
1.世界と日本の拡大状況(3月1日時点)
全世界で8.6万人が感染し、2,941人が死亡。内訳は、中国7.9万人(死亡2,835)。韓国3,150人(死亡17)、イタリア1,128人(死亡29)、イラン593人(死亡43)、日本242人(死亡5)、シンガポール102人(死亡0)、フランス100人(死0)の順です。
新型コロナウイルス 日本国内の最新感染状況マップ(NewsDigest)
この一週間の患者数の伸びは、韓国4.1倍、イタリア7.2倍、イラン13.8倍です。一方、中国は1.03倍、シンガポール1.15倍と抑え込みつつあるのが印象的です。日本は1.63倍と中間に位置します。
この意味では、中国全土からの入国拒否は合理的ではなく、韓国大邸からの拒否(2/27から)は意味があったといえます(北京や成都等では日本・韓国からの訪問を抑え込み始めました)。
またアメリカも65名の患者数となり1名の死亡者を出しました。結果、韓国とイタリアの一部地域への渡航中止呼びかけと、イラン滞在者の入国拒否をトランプ大統領が今朝表明しています。
新型ウイルス 米で初 患者死亡 韓国など一部地域「渡航中止」(NHKニュース)
WHOも2/29時点で新型ウイルスの世界的危険度を最高レベルに引き上げています。新型ウイルスの問題は中国周辺ではなく、世界中の問題に広がったと言えます。
新型ウイルスの世界的危険度、最高レベルに引き上げ=WHO(BBCニュース)
なお国内の状況ですが、北海道70人、東京37人、愛知29人、神奈川22人の順で、23都道府県に感染が広がっています。昨日2/29には東北で初めての感染者が仙台市で確認されました。
2.日本の新型コロナ検査は不十分なのか
引き続き、「検査体制が不十分なため、実際の感染者は公表されている数字よりも遥かに大きいのでは?」といった言説が広がっています。しかしそれは正しくないと岩田健太郎医師が指摘しています。
ここは異論があるかもしれないが、検査陽性率10%未満の場合、「検査のやらなすぎ」とは言えないと私は思います。適切に検査対象を選別している。もちろん、個別の症例では「検査すべきだった」方もいるとは思いますが。陽性率が高くなると、捕捉できてないケースの存在を疑います。これが基本的考え方
— 岩田健太郎 Kentaro Iwata (@georgebest1969) February 26, 2020
例えば韓国は7,8万人に検査した段階の陽性率は3.8%(2,931人)。日本は現在3,614人で5.9%(213人)です。適切に検査できていると言えそうです。
ドライブスルーでコロナ検査も 韓国、感染者急増の背景(朝日新聞デジタル)
但し、都道府県単位ではやや状況が異なります。検査率を都道府県別にみると、北海道19%(325人中63人陽性)ですから、まだまだ検査していなくて陽性の方も多いと見られます。ちなみに東京は6%(532人中32人陽性)、大阪は1.4%(209人中3人陽性)に留まっていて、そこまで肺炎が広がっていないと見られます。
PCR検査の感度は30-70%との報告があります。軽度の方が検査をうけて陽性になると元気でも入院になりますが、その一定の割合は本来は陽性ではありません。ただでさえ不足している感染症患者向けのベッドが元気な方に奪われてしまうのです。軽度の方は、検査を受けず、あくまで自宅待機を続けましょう。
新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました(バズフィードジャパン)
3. 小中高校の休校は正しいのか
韓国やイタリアと比べると日本は感染者を抑えられていますが、中国・シンガポール程ではありません。2月11日以降新規感染者は増加傾向にあり、3月は山場となります。したがって、社会全体の活動を抑えてピークをずらしていくことは必要です。
他方、WHOが報告書出したように、19歳未満の感染者は全体の2.4%にとどまり、その中で重症化するのはごくわずか。中国のデータでも10-30代の死亡率は0.2%です。
WHO調査報告書 症状の特徴・致死率など詳しい分析明らかに(NHKニュース)
ここからみると、小中高校の休校が有効かは分かりません。あくまで経済的ダメージが”比較的”少ないのと、行政が短期間で実行しやすく、またアナウンスメント効果が大きな施策として選ばれたのだと思います。
疑問が残る施策ではありますが、ピークを抑える必要があるのは確か。行政には、学校がないと生活が厳しくなる家庭へのケアを大事にして頂きながら、むしろ重症化率が大きい高齢者への感染を抑えるための施策を練り続けて頂きたいと思います。
4. 153億円の政府対策予算は少ないのか。どのような経済対策が必要なのか
まず、諸外国の新型コロナ対策(シンガポール5,000億、台湾2,200億等)と比べて、日本の現在の153億が少ないと言われますが、これはフェイクニュースです。
日本はまずは予備費から初期の費用を出し、大型の予算は補正予算で通します。例えば東日本大震災では最初の一ヶ月間は予備費から679億を投入。その後4月22日に3千億の第一次補正予算、7月5日に2兆円の第二次補正予算を通しました。西日本豪雨でも8月に予備費から616億支出、11月に補正予算で9,356億円支出しました。3月中の補正予算で、数千億の支出が組まれることになるでしょう。
では、どのような経済政策が必要なのか。飲食・宿泊・イベントといった対面/集客サービス業が大きなダメージをうけ、しかも今後数ヶ月に渡って客が減少する可能性が大きいのが今回の特徴です。まずは当座の資金繰りを支える必要があり、経済産業省も既に施策を進めています。
しかし自粛が長期化することを想定するとこれでも足りません。ダメージを受けたサービス業への直接の補助金を幅広く出していく必要があります。ただし出し方が重要。情報化や、事業統合による生産性向上、新しい事業創造への意欲ある若い企業への支援を行うべきです。
5. 人を論ずるのではなく、事を論じる
前回も「冷静に論点ごとの整理を」と書きましたが、残念ながら感情的になっている方が多く見受けられます。
「総理が」「野党が」「この有識者が」といった、人に対しての批判は、今の時点では私は見ないようにしています。あくまで検討すべきことは、一つ一つの事象に対してであるべきです。そして状況は刻一刻と変わります。今日正しいと思われる状況も、明日には真反対になりえます。冷静に、この状況を乗り切っていきたいと思います。
政権批判や擁護、人物人格批判パターンにはまり込むと危険なので避けといたほうがいいです。これをやるとどんな見解も「あの人が言うから正しい」あるいは「間違ってる」という誤謬に陥ります。百パー正しかったり間違ってたりする人なんていないんだから(私もそう)。論ずるはコトやモノで人ではない
— 岩田健太郎 Kentaro Iwata (@georgebest1969) February 27, 2020
編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2020年3月1日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。