ソーシャルセクターに競争は必要か~PwC財団鼎談後編より

PwC財団設立にあたっての役員鼎談の第二弾が公開されました。

タイトルの「ソーシャルセクターへの競争原理の導入」という言葉に驚かれた方もいると思います。その意味・背景とともに、健全な競争にむけてNPO・行政・企業各セクターの連携の必要性について説明しておきたいと思います。

ソーシャルセクターと競争原理

『藤沢:小規模な団体はあらゆる地域、あらゆるテーマに草の根で対応するという意義を考えると、保護しなければいけない側面があります。一方、大規模なNPOの場合、本来の目的は社会課題の解決であって組織の維持ではないので、社会的リソースをどれだけ効果的に生かして課題解決できているかをもっと問われるべきではないかと思います。社会課題のマーケットプレイスのような場を作り、そこで受けた評価に応じてお金やリソース、政策がついてくるといった健全な競争環境が必要ではないでしょうか』(鼎談より)

ボランティア団体と専門的なNPOは法人格として分化されておらず、一緒くたに議論されることが多くあります。しかし、この対応は全く別であるべきです。

例えば被災者支援は近年、公金によって「地域支え合いセンター」が担います。しかし被災者を丁寧にカバーするためには、ボランタリーに近所同士を支える地元の団体が欠かせません。こうした団体は事業収入をあげることは困難であり、寄付や補助が必要です。

他方、近年は行政や企業と対等につきあうことができる、専門的なNPOも増えつつあります。こうした団体に対しては、一定の競争原理をいれて、限られた資金・人材・制度が有効に配分されていく必要があります。投入された資金や人材が有効に活用されているか。アウトプットやアウトカムは十分か。ガバナンスは適切か。こうした点が評価される「社会的市場」が必要だと考えています。

NPOの競争相手は、行政。

『藤沢:欧米では社会におけるNPO・NGOの信頼性が非常に高いのですが、日本ではまだそうはなっておらず、震災時や今回のCOVID-19でもNPOより行政に多くの寄付が集まります。NPO間ではなく、行政との競争なんですね。NPOは、限られたリソースをより有効かつ機動的に活用できるという点では行政よりも優れているということを示さなければならない。それができなければ、公共領域の課題解決を担う意味がないという危機意識を持つべきだと思います』(鼎談より)

同時に、専門的なNPOにとっての競争相手は、NPOではなく、むしろ行政であり、企業だと考えています。

社会課題解決の担い手は、依然として行政が担っています。地方にいけばいくほど、行政への信頼は強くあります。被災地でNPO職員が地元の方と結婚するときにご家族に反対されていたが、より不安定な地元役場の嘱託職員になった瞬間に賛成されたとの笑い話が印象に残っています。しかし行政は前例主義、単年度主義、仕様書主義(きまった範囲の仕事しかできない)、悪平等といったデメリットがあります。NPOが行政以上に社会的成果を残すことは十分可能です。逆に言えば、行政以上のインパクトを出せないならば、公共領域の仕事を担うべきではないと考えます。(繰り返しですが、これは地元ボランティアやチャリティ団体には当てはまりません)

企業の中にもソーシャル領域の專門家を

『藤沢:外資系企業ではCSRなどの部門が専門性のある職種として確立されており、担当者が長期間継続して課題に取り組める場合が多いのですが、日本企業ではCSR担当者が数年で異動し、そのたびに新任者が関係構築からやり直さなければならないということがよくあります』(鼎談より)

また、ESG投資へSDGsのトレンドの中で、大手企業もまた社会問題解決への関心を強めています。但し、ソーシャル領域の専門家を社内に育てていないことが、特に日本企業にとっては課題となっています。以前、水野弘道さんと浜田敬子さんとのリディフェスでの対談で、同じ問題意識を語りました。

私は潜在的に、企業はNPOにとって社会課題解決を行う上でのライバルでもあると考えています。企業が事業を通じて環境問題や社会的貧困といった課題の解決を、続々と目指していく時代が近づいています。そのためには、社会課題に関する專門家を企業自身が確保することが必要であり、実はNPOはその人材供給源になると考えています。

NPO人材が行政・企業に広がっていくことで、ソーシャルイノベーションは加速する

『安井:PwC財団を設立した背景には、単独の企業や団体だけでは社会課題への取り組みに限界があるという認識があります。私自身、社会支援の現場を視察した際に、当事者の方が「行政や企業からいろいろな人が訪ねてくるが、私たちの生活は一向に良くならない」とおっしゃるのを聞いて、やはりそれぞれがバラバラに取り組んでいてもだめで、企業、行政、ソーシャルセクターが連携してコレクティブなアプローチで臨まなければならないのだということをあらためて実感しました』(鼎談より)

既に大手企業や官公庁と接点があるPwCが、ソーシャルセクターとの連携を目指す財団を設立したこと。また3人の理事の中で2人までをソーシャルセクターの人間としたのは大きな意義があります。PwC財団が、国内のソーシャルイノベーションの環境を変化させていく起点になることを期待しています。

新公益連盟としても動いていきます。行政、企業、そしてメディアの中で、社会課題に精通し、またソーシャルセクターを適切に評価できる人材が十分育っていない状況があります。経験あるNPOの人材が、各セクターで役割を果たしていくことが必要であり、その仲介・マッチングを新公益連盟が果たせないか、その準備を進めています。

世界が「Build Back Better(創造的復興)」の掛け声で、コロナ禍からの復興を目指しています。日本社会自体も変化していくように、ソーシャルセクターからも声を広げていきたいと思います。


編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2020年10月24日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。