1月20日の産経新聞朝刊に「取引先の脱炭素取り組み-Jフロント、定期調査へ」との見出しで、Jフロントリテイリングが今年からアパレルメーカー等の取引先企業に対して「脱炭素の取り組み状況」を定期的に確認する調査を開始する方針であることが報じられています(経済11面参照)。また、日経イブニングスクープでは、帝人が自動車部品供給体制を担う企業として、欧州基準に沿ったCO2排出量の開示を行うことを決定したことが紹介されています。
サプライチェーン全体で脱炭素への意識共有を進め、効果的な温室効果ガスの排出削減につなげるそうです。米国アップル社も、すでに取引条件として環境基準を示していますが、こういったサプライチェーン全体での脱炭素への取組みはますます進むでしょうから、上場会社だけでなく、非上場会社もESG経営への関心を高めていくことになりそうです。
とりわけ上場会社の場合には、融資や投資の対象として「脱炭素への取組み」姿勢が情報開示の対象となるので、第三者による保証も念頭に置いた情報開示の工夫が検討されます。私が社外取締役を務めている会社も、日本で16番目に国際的環境イニシアチブ「RE100」に加盟したものですから、20年、30年先の事業活動をいかにして再生エネルギーで100%賄うのか、また、他社が賄えることを支援できるのか、エナジー事業部門を通じて試行錯誤を繰り返しています。
ところで、20日の日経朝刊「私見卓見」では、こういった企業の温暖化対策の進展にとって、とても有意義な論稿が掲載されていました。国際環境経済研究所の主任研究員の方による「温暖化対策、現実的な議論を」は必読であります(ちなみに、この方の論稿は、この1月から開始された日経の「comeco(note)」の要約版なので、COMECOの字数制限がないほうの論稿(ブログ?)を読むことをお勧めいたします)。
機関投資家や金融機関の方々が、最近は企業に二酸化炭素(CO2)排出量を減らすように促していかなければならない。排出量を毎年報告させ、減少傾向にある企業が投資や融資を受けやすくなるようにしよう、とおっしゃる。これは「ごもっとも」と思う人もいるかもしれないが、その企業の排出量が減っているのは努力によるものなのか、それとも単に事業が悪化して生産量が減っていることに伴うものなのかは確認しなければならない。なかには排出量が増える要因となるものは取引先や下請先に「外だし」して自らの庭先だけをきれいにしただけかもしれない。英国は排出量を減らしたかもしれないが、それは製造業の構成比が激減したことによるものであり、製造業が減った分は中国から輸入して消費をしており、むしろ消費ベースではCO2排出量は増えているという研究もある
とのこと。環境問題に関する研究員の方々であれば当然のことかもしれませんが、私から見るとこれこそ卓見であります。先のJフロントリテイリング社のように他社の報告を受けて取引を開始する、上記発言をされた金融機関のように各企業の開示情報をチェックすることで投資する、融資するといった「ソフトロー」に重きを置いたインセンティブ(規制)の活用が今後主流になると思います。
ただ、その取組みがなぜCO2削減につながるのか、また報告や開示情報で示された数値変動が本当に脱炭素社会実現に向けた取組みから生じたものなのかどうか、その理由の説明が求められるということに思いを寄せるべきだと考えます。また、先の私見卓見の内容から推察するに、その理由説明は会社(グループ)全体の経営を理解していることが前提なので、経営者自身による説明が求められる、ということになるのでしょうね。
もちろん説明するのは専門家ではないので、おそらく「因果関係」ではなく「相関関係」の世界での説明になるはずです。ただ、多くのステークホルダーに開示情報をわかりやすく(自信を持って)説明するためには、社内における失敗の繰り返しから得られる経験、知見がとても重要ではないか・・・と社外取締役をしていて感じるところです。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。