海外で日本人のリーダーが出ないのはなぜだろう?

海外に在住する日本人は現在150万人ぐらいいるとされます。また国際結婚で日本のパスポートを放棄したり、海外で子女ができて当該国のパスポートを持つ日系人を考えると、日本人と日系人の合計はその3-4倍ぐらいはいると思われます。(日系人は何世までが該当するのか、あるいは何%のブラッドならそうなのかといった定義が難しいのとそれを測定方法が少なく、各国の国勢調査からその傾向を推測するぐらいしかできません。)

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私がほぼ30年、カナダに住んで思う日本人、日系人の特徴があります。それはその社会全体で見て上に立たない、あるいは立てないのです。もしかしたら私の見ている世界が狭いのかもしれません。よってこれから述べることは間違っているかもしれませんが、少なくとも私がとても気になっていることです。

日本のパスポートを所持する日本人はなぜ海外に住むのでしょうか?私のように純粋にビジネス目的もありますが国際結婚を含め、長く住む方は根付いたというのが正解かもしれません。そしてそこでは常に日本の生活との差を考えます。「どちらが良いのか」であります。収入、ライフ、物価、友人関係、人付き合い全般、医療、福祉…いろいろあるでしょう。カナダでは概ね、医療以外は当地の生活がよいと言います。「住めば都」なのですが、気遣いという点では日本はやや息苦しい時があります。

当地で長くビジネスをし、リタイア後もカナダライフをエンジョイされていたある方は病気治療を理由に日本のある地方に帰国されました。しかし、そこで待っていたのは「知人がいない」「洋行帰り」で近所とのコミュニケーションに苦労した挙句、早くに亡くなってしまいました。ある意味、海外にいる日本人の独特のメンタリティが邪魔になったのかもしれません。

さて、私の周りには日系人も多くいます。20代の現役から80代で日本語がたどたどしい方まで様々で仕事の話もよく伺います。全般的な傾向として日系人はマネージャーか専門家にはなれるけれどマネージメントの壁は「ガラスの天井」でなかなか経営陣になれないのです。それは言語能力の問題ではありません。私が疑っている理由は二つ。一つがリーダーシップの欠如、もう一つが見えない差別です。

リーダーシップについては日本人のメンタル的傾向としてなんでも自分でやってしまうところがあり、人を使い、労力のレバレッジをかけるより自分の能力をとことん追求して「こんなこともできる」ということを強みとする人が多いと思います。海外では特にその傾向が出やすく、日本人の器用さが逆に人や会社にうまく利用され、まさに「使われている」という状態になるのです。これでは北米では経営幹部になりにくいでしょう。

もう一つは見えない差別です。これはその言葉通りです。つまり北米においてビジュアルによる判断差は今でも消えないということです。これはこれ以上申し上げませんがあまり指摘されることはなかったと思います。

では日本人、日系人はそんなところでも満足しているのか、といえば案外満足しています。こちらはそもそも給与が高く、ある程度専門的能力を持っていれば年収1000万円台はごく普通です。共稼ぎの家庭も多いし、不動産を持っていれば少なくとも今までなら損することはまずありません。とすればお金にある程度余裕があり、自分の家の価値がちょっとした集合住宅でも1億円ぐらいになっていますので悠々自適のライフが送れるのです。

この辺りのメンタリティはアジアに住む日本人と真逆だと思います。アジアではお金で地位なり欲望を満たすことが可能ですが、北米では金銭的レベルではかなわないもののゆとりの暮らしと質が提供されます。シンガポールあたりに在住する日本人は金銭的背景がある日本人会すら組成されているような話も耳にしますが、ここではマネーも相手の資産についても一切触れません。私だって何の仕事をしているかなんて聞かれることはあまりないのです。うまく生活を楽しんでいるか、それだけが関心事なのです。

こうなると残念ながら満足感が先に出て「さらに良くしよう」という気持ちは起きにくいものです。欲しいものや情報は手に入り、気の合った仲間たちとだけ過ごしていても何ら不自由はありません。この辺りが中国系や韓国系のように「自分たちの地位向上を目指す」「もっと上に立ち、社会的影響力を及ぼす」といった壮大な夢はかき消されてしまうのでしょう。政治家や成功した企業の経営者の数は圧倒的差となって表れています。

そういう点からは世界で通用する日本人の「大物」はなかなか排出されないのは満足度という沸点が低いのかもしれません。それはそれで大事な価値観だと思いますが、リーダーが以前より更に生まれにくくなったような気がしてなりません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月6日の記事より転載させていただきました。