「デカップリング促進法!?」を米中がそれぞれ可決

表題を「可決」としたが、米国の「USICA」は8日の上院のみで、まだ下院の採決と大統領署名が必要だ。が、超党派提案の68vs32での可決なので、間違いなく通るだろう。一方、中国の「反外国制裁法」の方は、通常は全人代常務委員会で3回やる「読会」を1回省いて10日に可決、発効した。

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「デカップリング促進法」としたのも、筆者が勝手にそう考えているからであって、米国にはその意識がありありだが、中国にはそのつもりが全くないのかも知れない。そのことは、以下に説明する米中両新法の中身を読めば、想像がつくはずだ。

USICAは「United States Innovation and Competition Act」との名の通り、米国のイノベーションと競争力を高めるための法律だ。22年度から26年度までの会計年度に2,000億ドルを注ぎ込むことを政権に要求している。正副大統領がこうだと超党派の対中強硬策が進むのか。

邦貨で20兆円を超える巨額予算の最大の使途は米国での半導体生産だ。「半導体生産支援インセンティブ創出法(CHIPS法)」として、次の会計年度の国防授権法に4分の1の520億ドルを投下する。またモバイルブロードバンドの研究開発などのインセンティブプログラムにも15億ドルを使う。

人工知能やドローンなどの「主要な技術重点分野」での研究開発や商業化を支援する「エンドレスフロンティア法」では、全米科学財団(NSF)の中に技術革新局を設立する。この分野では52億ドルの予算でSTEM(Science・Technology・Engineering・Math)奨学基金を設け、高等教育の充実も図る。

肝心なのはUSICAの重要部分が、中国の世界的な影響力を「軽減または打ち消す(diminishing or countering)」ことに焦点を当てていることだ。このため、ラテンアメリカ、カリブ海、台湾、アフリカ、東南アジアを重点に、投資や貸付、そして交易を増大する戦略の実施を政権に求めている。

また「外国」からの知的財産の保護や資金調達計画からの除外、「特定の国」からの商品やサービスの購入削減も目指している。名指しはせずとも「外国」や「特定の国」が共産中国を示すのは明らかだ。さらに米国に利益をもたらすべく、国際基準設定委員会で指導的地位を取り戻すことの重要性を強調する

2021年度の「貿易法改正」もUSICAの目玉の1つで、貿易規制における連邦政府の役割を高めるための新しいプログラムと「メイド・イン・アメリカ」事務所などの部局設立が含まれる。が、連邦政府機関は「バイアメリカン」を免除され、外国製の商品を調達することができるそうだ。

また商務省にはサプライチェーンの回復プログラムの確立を求めていて、このための官民協力が奨励されている。まずは半導体サプライチェーンの回復を優先するが、将来的には他のサプライチェーンの問題もカバーする。さらに中国の影響下にある企業のドローンを連邦が調達することも禁止する。

発展途上国からの特定の輸入品に対する関税を削減や撤廃する一般特恵関税制度(GSP)と、米国内で調達できない製品の関税緩和(MTB)の法案も再承認する。トランプ政権の対中第301条(中国関税)については製品によって除外プロセス自体が変更される。

この法案に対し、中国外務省の汪文斌報道官は9日の記者会見で、中国との戦略的競争を提唱し、新疆ウイグルやチベット、香港を含む「中国の内政に深刻な干渉を与える」と非難し、同法は「冷戦のゼロサム精神に満ち」、中国を「架空の敵」とする米国の認識を示していると述べた。

中国の「反外国制裁法」は、市民権や登録ステータスに関係なく中国の個人と組織すべてに対し、北京が始める制裁の実行を要求する。そして第12条には「いかなる組織や個人も、外国が中国の市民や組織に対して用いる差別的な制限措置を強制または実施することを強要できない」とある。

さらに「中国の市民や組織は、(外国の制裁に従っている)外国企業を相手取って訴訟を起こし、侵害を止め、損失に対する賠償金を支払うよう求めることができる」とする。つまり、H&Mのような外国企業が米国やEUなどの制裁に従った場合、新疆生産建設兵団(XPCC)が同社を訴えるという訳だ。

また同法は、外国の違反者とその直接の親族、会社の経営者と取締役および関連する個人と組織を、外国が課した制裁への報復の対象としている。その処罰には、ビザの拒否や取り消し、財産と資産の差し押さえ、そして貿易活動の禁止が含まれる。

米ホフストラ大学法学部のジュリアン・クー教授はツイッターで、「反外国制裁法」を「基本的にEUのブロッキング法を真似たもの」と指摘する。ブロッキング法は、EUが米国の対イラン制裁などの影響を無効にすることを目的に18年6月に設けた。だが、中身が曖昧でEUも「政治的武器」とする。

が、これが念頭にあるからか、汪文斌報道官は前9日に続く10日の記者会見で、この法律は外国の制裁に対して報復するための法的手段であるとし、記者から同法が他国との外交関係に影響を与えるかどうかと(きっとシナリオ通りに)尋ねられると、「懸念は…まったく不要だ」と述べた。

目下、米国は全人代常任委員会の副議長14人全員を含む45人の中国当局者に制裁を課している。加えて米国は、イランに対する米国の制裁に違反したファーウェイなどから米国技術を購入した中国企業をブラックリストに載せて、ファーウェイが養豚に手を出すまでに締め上げる。

一方の共産中国は1月21日、28人の米国人とその親族の中国・香港への訪問を禁じたが、今度の新法によって、新疆ウイグルからの綿花購入や、ファーウェイへの半導体チップの販売といった中国企業への米国技術の販売などを、在中国の外国企業に対して強要する可能性が出てくることになる。

同法の趣旨に従うなら、中国企業も同様で、例えば米国のリストに載っているSMICにしても、米国技術を使ったチップをファーウェイに売らざるを得なくなるだろう。が、そうした日には、SMICは米国技術を使う権利のみならず、その世界市場をも失ってしまうことになろう。

また中国の外国企業にしても、共産中国が同法に従うことを強いれば、SMICの仮定と同じ道を歩むことになる。斯して外国企業は中国から出ていく。が、北京にはそうはならない自信があるのだろうか。筆者が中国の新法を「デカップリング促進法」とするのはこういう事情からだ。

世間に「オウム返し話法」というのがある。事情を深く知らない者や耄碌気味のご老人などが、相手の話したことをオウム返しに繰り返して、話を合わせることを指す。むろん外交交渉などは相互主義だ。が、共産中国のこうした反応を見るにつけ、筆者はこの話法のことをいつも思い出す。

今年は日本の独立(サンフランシスコ平和条約)から70年だ。当時の米国は中ソやその衛星国の共産包囲網を恐れて、日本を取り組むべく平和条約を急ぎ、朝鮮戦争でそれが現実になった。西側諸国に包囲される目下の習近平も、当時の米国の心境かも知れぬ。が、今の中国には「日本」がない。