8月31日のブログで「普通の国になったアメリカ」と題した投稿をしました。「普通」という言葉をどうとるかですが、私が含ませたのは「しゃしゃり出ない」という意味合いを念頭に置きました。強大な国ゆえに自意識が高く、プライドも高いものです。日本に於いて一定年齢以上の方はアメリカの文化/娯楽、製品、サービス、スポーツに魅せられ、影響を受けてきたことを否定することはできないでしょう。
極論すれば元気な頃のアメリカは地球全部が「アメリカの裏庭」ぐらいの発想だったのです。世界の警官という良い表現をしますが悪く言えば「俺の庭を勝手に荒らしやがって」だったとも言えます。それゆえ、共産主義バカヤロー、テロリストを締め上げよ、でありました。
変わったな、と思わせたのがトランプ前大統領が中国との貿易戦争を通じた戦略です。「踏み込まない」。これが私の強い印象です。では北朝鮮。金正恩氏と3度も会ったのに「踏み込まない」のです。もう踏み込むつもりがないのではないか、という気がしたのです。対中国は貿易戦争と称しながらマネー絡みの過激なビジネスディールの類ですし、昔のアメリカならばロケットをポンポン飛ばす金委員長を特殊部隊が捕まえるぐらいの荒業はあったでしょう。
今、膨張する中国への警戒感が強くなってきています。そこでアメリカは何をしたのでしょうか?台湾に武器を売ったのです。つまり支援をする=武器を売る、です。ビジネスを深堀するものの他国への関与を着実に後退させているように見えます。
日経に「米、海外関与の縮小鮮明 同盟国に問われる自助努力」という記事があります。「バイデン政権の内情に通じた関係者によると、バイデン氏の早期撤収の判断にはアフガン政府軍の変わらぬ『米国頼み』の姿勢もあった。『アフガン政府軍が戦う気力のない戦争で米兵は戦うことはできないし、そうすべきでない』。バイデン氏はこう主張する」とあります。
この「米国頼み」の重さを嫌う、これがトランプ、バイデン両氏のスタンスです。共和党も民主党も同じ考え方だということは重要です。
トランプ政権の時、駐韓米軍の撤退説というのがありました。「もう十分共同演習もしたのに、お前ら、十分な分け前(=駐留費)も出さないじゃないか、ならそろそろ引き上げるからな。武器は引き続き欲しいだけ売ってやるからな」。これが本音だった気がします。あの頃、安倍前首相にも駐留費引き上げ問題をトランプ氏が吹っ掛けていました。私はアメリカとの縁は19歳からでそれ以降、しっかり様子が見られるところにいますが肌感覚としてずいぶん変わったことは確実にわかっています。結局、アメリカは普通の国になり、イデオロギー国家からビジネス国家アメリカに転身したのです。
仮に中国が台湾を、そして太平洋に出る道を確保するという実力行使に出た場合、アメリカはどこまで関与してくれるでしょうか?私はアメリカ国内の世論形成ができない気がするのです。「なぜ、アメリカはそこまでして台湾を守る?」。誰も考えたことがない意見ですが、アメリカからすれば台湾の認知度はあれどカラダを張ってまで守るか、これは疑問です。
確かに半導体やアップルの製品をだれが作るのか、という疑問はあります。が、対策の準備は進めているようです。半導体も仮に噂されるウェスタンデジタルが東芝から分離したキオクシアと合併があるとすればそれはアメリカの国策の可能性すら考えられます。トランプ氏のアメリカ企業版レパトリ(Repatriation=本国回帰)も相互不干渉の立場であるモンロー主義を想起しますが、現代版モンロー思想では「関与の実感がわかるメリット」を求めているのかもしれません。
かつての大戦や欧州の戦争は主義主張に他国も加担するという形だったと思います。今はあんなウェットな時代ではないのです。はるかにドライで乾ききっています。これが時代の絶対的背景の相違ではないでしょうか?
日本は自助努力を、と日経にもありますが、すわ武力、自衛隊強化というわけでもないと思います。外交戦略と共に日本が自信を持ち、対等に議論できるようにする、これが最も重要なことだと思うのです。中国にどう太刀打ちするのか、飴と鞭を使い分けることも必要でしょう。真正面からぶつかっても意味はありません。彼らを刺激するだけです。そもそも中国の根本には戦争時代、日本に嫌な思いをさせられたという恨みつらみでいっぱいなのです。その対処は、私は「正論で論破できる国家であれ」という思いです。
いみじくも日本は自民党内がまとまらない状態。私はとにかく胸を張って正々堂々と相手国と議論できる宰相を期待します。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月10日の記事より転載させていただきました。