ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で何と答えたか

9月29日に自民党総裁に選ばれた岸田文雄は、両院議員総会での挨拶で「多くの皆さんが政治に国民の声が届かない、あるいは政治が信じられないと切実な声を上げておられました」と立候補動機を説明し、自らの「特技は、他人の話をしっかり聞くということ」と述べたそうだ。

国を誤らせる「皇統」や「エネルギー政策」の持論に加え、一族が保有する「日本端子」に絡む中国疑惑が出来した河野太郎が選ばれた日には、日本が滅ぶと懸念していた筆者には、次善の結果とはいえひと先ず安堵した。が、この挨拶を聞いて、やはり最善ではないなあ、と悩ましい。

挨拶前段は前職菅義偉に対する礼を失しているし、後段では、その「特技」が長所にも短所にもなるとの自覚が欠けている。後者では、18年9月の総裁選出馬に関し「私はどうしたらいいのでしょうか」と当時の安倍総理に「聞いて」、世間を呆れさせたのをお忘れか。

そこで本稿は「他人の話を聞く」をキーワードに米国の話をする。

米議会は、9月28日に上院、29日は下院で、アフガンからの米軍撤退に関する公聴会が開かれた。「聞かれた」のはオースチン国防長官、ミリー統合参謀本部議長(CJSC)、そしてマッケンジー中央軍司令官の3将軍だ。

筆者の興味は、アフガンでの撤退や誤爆よりも、9月下旬に出たワシントンポスト記者ウッドワードとコスタの著書「Peril」の中で、トランプの暴走を懸念して人民解放軍のカンターパートに2度電話した中身を暴露されたミリーが、その火の粉をどう振り払うのかにあった。

アフガン撤退に関する3将軍とバイデンとの食い違いについては、バイデンが撤退直後の8月19日に応じたABCニュースのステファノプロス(クリントン政権でホワイトハウス在勤)のインタビュー発言との齟齬が焦点になった。

マーク・ミリー米JCS議長 Wikipediaより

ミリーは、バイデンに何を助言したかは明かさないと言いながら、「私はアフガンに2,500人の部隊を維持するように推薦した」と明言し、マッケンジーも大統領との極秘の会話は伝えないといいつつ「私はアフガンに2,500人の兵力を維持するように勧めた」と述べた

バイデンはステファノプロスに「貴方の最高軍事顧問はこの日程での撤退に警告し、2,500人の軍隊維持を望んでいたのでは?」と問われ、「いいえ、そうではなかった。(意見が)分かれていた。それは真実ではない」、「思い出せる限り、誰もそんなことはいっていない」と答えていた。

コットン共和党上院議員はオースチンに、「大統領は先月、ステファノプロスとのインタビューで、アフガンに小規模な兵力を残すよう助言した軍人はいなかったと述べた。これら軍人やミリー将軍の提言は、大統領個人に届いたのか?」と問うた。

オースチンは、「彼らの意見が大統領に届き、検討されたことは確かだ。具体的に何を提言したかについては、彼らが先ほど述べたように、内容を提供するつもりはないと言っている」と答えた。

Foxのタッカー・カールソンは「それだけ? 問題だ、彼らは何たるゲスか。『我々はバイデンに2,500人の軍隊を駐留させるように言い、それを要求した』、だのに我々は昔からの神聖な守秘義務に縛られているから大統領に何を言ったかは言えないと、それはおかしい」と難じた。

さらに「マッケンジー将軍は、アフガンでの惨事を自ら監督したにも関わらず、実際には自分は何もしていないと説明した。全てホワイトハウスで糸を引いている呆けた爺ちゃん(demented grandpa)の仕業だ」と手厳しい(9月29日のFoxnews)。

次は誤爆。3将軍は、8月26日の自爆テロで13人の米軍人と数十名のアフガン人を殺したISIS-Kへの29日の報復が誤爆だった件でも針の筵に座らされた。これは、日本に協力したアフガン関係者500名の救出を間一髪失敗せしめた一因にもなった。

米国は一連の作戦を、「遠くからでも脅威を識別し排除できる」との意を込めて「地平線の上(over-the- horizon)」作戦と称し、ミリーは当初、「ISISの支援者」に対する「正義の一撃」が「まだ地上にいる米軍への攻撃を防いだ」と説明していたから、なおさら情けなさが際立つ。

勝利宣言をし数週間にわたり「作戦」を擁護したバイデンだが、結局、誤爆を認めざるを得なくなった。Foxの別記事は「全容が明らかになった今、本来の標的はどうなった? 2回目の差し迫った攻撃は本当か? 相手を間違えたならなぜそれが起きなかったのか?」と疑問を呈する。

最後はミリーの電話。FoxやDairy Signalなどの保守系紙、中道メディアのAXIOSやThe Hill、左のCNNなどにも目を通したが、総じてミリーの電話事件により多くの紙面を割いている。思惑は違えど、やはりアフガンより共産中国の方が気になるということか。

CNNは「アフガンでの国防総省の意思決定を擁護するために議会に来たミリーが、議員らと個人的な戦いをすることになった」とし、「アフガンの軍事的・政策的な失敗を検証するはずの公聴会」が、「ミリーと議員の間の争いに発展することもあった」とミリー寄りだ。

ミリーは「自分の行動を全面的に弁護し、中国高官との通話は適切で、多数の大統領高官がそれを認識していた」と述べた。が、共和党ターナー議員は「貴方は我々ではなく記者と話すことを選んだ」、「議会の誰も主要な核保有国の一つが、自分達が攻撃の脅威に晒されていると考えていることを知らなかった」と述べたとも書く。

この「多数の大統領高官」をAXIOSは、ミリーは「メドウズ首席補佐官やポンペオ国務長官などのトランプ大統領の高官がこの会話について説明を受けていたと明らかにした」と報じている。

AXIOSの別記事には、ミリーは「10月30日と1月8日の通話は、その前後にエスパー長官、ミラー長官代理のスタッフや省庁間で調整された」、「私は大統領が中国を攻撃する意図を持っていなかったと確信し、その意図を中国側に伝えることは、私の長官によって指示された責任でもある」と述べたとある。

「長官」とはオースチン国防長官だ。米軍の指揮命令系統では、CJCSは軍事上の指揮権は持たず、専ら軍に対する戦略的指示について大統領と国防長官を補佐する立場だ。

Dairy Signalは、ミリーが共和党ブラックバーン上院議員の質問に「最近の反トランプ本の全ての著者と話をした」と答えながら、「これらの本で貴方は正確に表現されていたか?」との問いには「どの本も読んでいないので判らない。報道を見たことはあるが本は読んでいない」と述べたとする。

が、CNNには矛盾する記述がある。即ち「ミリーは、ウッドワードらとのやりとりに関する批判に反論し、本の中に『政治的になることを望んでいた』と誤解される可能性があることを認めながらも、記者らと話したことを後悔していないと議員たちに語った」と。読んでいないならこの発言はおかしい。

「政治的」とは、ミリーが共和党ホーリー上院議員から「アフガンの状況が悪化しているのに、本のインタビューに時間を費やしている」と非難され、辞任を求められた際、「私は個人的に非政治的であることと軍が国内政治に関与しないことに最善を尽くしてきた」と拒否したキーワードだ。

以上、総裁選の討論会といい、米議会の公聴会といい、聞かれたことに真正面から答え、それが前言と矛盾しないこと、それが信頼される人間の最低限の条件、と改めて知らされた。