台湾防衛法を提出:台湾関係法から更に踏み込む米上院

ジョシュ・ホーリーら共和党上院議員は16日、中国(PRC)による台湾侵攻の「既成事実化」を「拒否」するための米軍軍事力の維持を求める「台湾防衛法案(TDA)」を再提出した。昨年6月にホーリーらが上下院に提出したが新議会となった1月に流産、今回再提出を行う。

用語の定義を見ると、「既成事実化(fait accompli)」を「米軍が効果的に対応する前に、台湾の支配を侵略し掌握すると同時に、米軍による効果的な共同対応を阻止するためのPRCの戦略」とし、米軍がそれを「拒否」する能力を保持することを大統領に求めている。

また「拒否(deny)」の定義を、「統合軍事行動(joint operations)を組み合わせて用い、PRCによる台湾に対する既成事実化を実行する試みを遅らせ、低下させ、最終的に打ち負かすこと」とし、その結果、「PRCの台湾に対する既成事実化の能力を無力化する」と踏み込んでいる。

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PRCを承認し台湾と断交した79年以降、米国は台湾関係法(TRA)によって台湾を支えてきた。が、事実上の同盟とはいえ、TRAの性格は以下のようであって、TDAの「PRCの台湾侵攻能力を無力化」するまでのことは含んでいない。

「(台湾を)国内法で国家として認める」目的で制定され、米中の外交関係樹立は台湾問題を「平和的手段によって」解決するという中国の約束に基づくもので、米国は台湾への「武力行使又は他の威圧的手段に対抗し得る能力を維持し」、さらに「台湾が充分な自衛能力を維持するために必要な量の防衛性の兵器や役務を供給する

TRAの主眼は武器売却などで台湾の自衛能力を維持することにあり、4月11日にブリンケン国務長官が、中国が「力によって現状を変更しようとするのは、誰であっても深刻な過ちだ」と述べ、米国による台湾の自衛力確保へのコミットを強調したのもTRAが念頭にあるからだ。

TDA再提出の背景には、コロナ禍を機に近時さらに強まったPRCによる台湾への圧力がある。例えばデービッドソン米インド太平洋軍司令官は3月9日の上院軍事委員会の公聴会でこう述べた。

彼ら(PRC)は、米国、つまりルールに則った国際秩序における我国のリーダーとしての役割に取って代わろうという野心を強めていると私は憂慮している・・2050年までに。・・その前に台湾がその野心の目標の一つであることは間違いない。その脅威は向こう10年、実際には今後6年で明らかになると思う。

彼は「やろうとしていることの代償は高くつくと中国に知らしめるため」、日豪に配備予定のイージス・システムや攻撃兵器に予算をつけるよう議会に求めた。4月30日付でデービドソンを後継したアキリーノ海軍大将も3月23日、上院軍事委員会の指名承認公聴会で前任者と同じ趣旨を述べた。

PRCも黙っていない。中国人民解放軍(PLA)の統合参謀本部長兼中央軍事委員会委員の李作成将軍は5月30日、以下のように述べた。その日は、共産中国が台湾の独立分子に対し非平和的手段を取ることを合法化し、台湾への武力侵攻に理屈付けした「反国家分裂法」の制定15周年に当たる。

もし平和的統一の可能性が失われれば、台湾の人々を含めた人民武装勢力は、国全体と共に、分離主義者の陰謀や行動を断固として打ち砕くために必要なすべての手段を講じるだろう。

他方、米国の統合参謀本部(JSC)のトップ、マーク・ミリー議長は、6月10日の上院軍事委員会での質問に対し、次のように答えた。

台湾への軍事侵攻には、台湾海峡を越えて、台湾が持っている軍隊と人口に対抗して、台湾の大きさの島を占領するためのかなりの軍事力を要する。たとえ反対政府勢力がいる場合でも、非常に複雑で困難な作戦で、それをやるのは非常に困難だ。

彼は17日の上院予算委員会でもこう述べた。

私の評価は、PRCがもしその気なら、軍事手段によって島全体を占領する作戦を実施する能力があると思う。現段階では軍事的にそれを行う意図や動機はほとんどない。その理由はないし、彼らはそれを知っているから、近い将来その可能性はおそらく低い。

3月の新旧司令官発言と矛盾するようなこの発言は話題を呼んだ。同じ会議でオースチン国防長官は、中国が台湾を占領しようとする時間軸は未定だとし、「その問題に対処する多くの諜報機関の予測がある」、「彼らがそれをしたいと思う可能性が非常に高い」が、「その能力を何時持つかはまだ判らない」と述べた。

なお、統合参謀本部議長(CJCS)には最上位階級の将校が就くが、米軍の指揮命令系統では、CJCSは軍事上の指揮権は持たず、大統領、NSC、HSC(国土安全保障会議)及び国防長官に対する主要な軍事的助言者であり、軍に対する戦略的指示について大統領と国防長官を補佐する立場とされる。

気になるのは、新旧インド太平洋軍司令官に比べ、トップ二人の発言が少々曖昧なことだ。文官ブリンケンの発言は台湾関係法を意識したものだろうが、軍トップの腰の据わらない発言は、共産中国に隙を見せることになりはしまいか。

思い出すのは50年1月12日にアチソン米国務長官が行った「アジアの危機-米国の政策の検討」と題する演説だ。その年の6月25日に勃発した朝鮮戦争は、この演説の一説が金日成に南侵を決意させた結果とされる。

アチソンは米国の防御境界線を「アリューシャン列島に沿って日本に向かって走り、その後琉球諸島に行き」、「フィリピン諸島まで続いている」とした。確かに韓国が抜けている。が、筆者はアチソン演説に関わらず金日成はいずれ南進したと思う。

問題は台湾だ。アチソン演説に台湾は一言も出てこない。50年1月12日といえば、前年10月1日に中華人民共和国(PRC)が成立、ソ連はその翌日に、英国も50年1月6日にPRCを承認した。だのにアチソンが12日の演説で台湾に触れていないのは甚だ不可思議。

トルーマンは朝鮮戦争勃発の2日後、押っ取り刀で第七艦隊の巡洋艦2隻などを台湾海峡に向かわせた。が、その効果は53年5月までだった。朝鮮戦争が小康したその日、PLAは温州沖島嶼部の蒋介石軍を攻撃した(第一次危機)。この危機は福建沖の金門と馬祖を台湾に残して終わる。

福建沿岸から金門への大量砲撃で始まった58年8月の第二次危機は、毛が大躍進の失敗を糊塗する一方、アイゼンワーが本気で核を使う気があるか様子を見る意味もあった。95年の第三次危機は、クリントンの軟弱さを見越して、李登輝による台湾民主化を牽制した。

が、何れの危機でも福建沿岸の金門と馬祖は台湾領のままだ。これを取ってしまうと台湾海峡の中間に境界線が敷かれてしまうから、毛沢東が(江沢民も)金馬を敢えて台湾に残したとの説がある。なるほどそうなると「二つの中国」が確かに際立つ。

毛の戦いは、東北を狙うソ連を牽制するための朝鮮戦争参戦にせよ、大躍進失敗の渦中にあった第二次海峡危機や中印戦争にせよ、文化大革命の余波が残る中越戦争にせよ、どれも真の戦争目的は国内の立て直しにあった。が、世界第二の大国になった今、毛が戦争を必要とした国内状況は一変した。

TDAも曖昧で矛盾に満ちた米国の「一つの中国」政策を一変させる可能性がある。G7では台湾海峡の平和と安定の重要性に言及した。それでも習近平の共産中国が台湾侵攻を強行するなら、G7は口だけでなくそれに対抗せよ。筆者はTDAの可決発効を待望する。

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