バイデン政権発足から来月でちょうど一年になる。この一年間のバイデンの政権運営は多くのアメリカ人にとって期待外れに終わったに違いない。米国民はバイデン氏の上院議員、副大統領としての政治歴、外交経験、そして党派を超えて共和党との連携を可能とする彼の政治的手腕に期待した。しかし、蓋を開けてみれば、バイデンはその経験は生かしきれずにいる。
大統領に就任する前後に彼は国家の分断を癒すとは宣言したものの、依然として政治的分断は癒えず、自らの支持基盤である民主党でさえもまとめることが出来ていない。
国外ではアフガン撤退、オーカス発足に伴うフランスとの外交上の摩擦などで、外交通のバイデンとしての信憑性は低下した。国内では米議会がアメリカ救済計画を通すことができてから、投票法や大規模な財政支出法案などの民主党支持基盤が渇望する国内アジェンダを具現化することができていない。さらに、ガソリン高騰や経済再生が加速するにつれてインフレが進行し、国民の生活が苦しくなっている。
そして、国内外でのバイデン政権のパフォーマンスに対して、左右から圧力がかかり、総じて国民が幻滅していることもあり、バイデン氏の支持率は発足から最低水準まで下がっている。また、皮肉なことにその数字は前大統領のトランプ氏の最低支持率と並びつつある。
このように、バイデン氏に対する当初の期待がしぼみ、国民のフラストレーションが高まるにつれて、2024年大統領選へのバイデン氏への出馬を疑問視する声が出始めている。
自由主義社会のリーダーは86歳のお爺ちゃん?
バイデン氏が2024年大統領選に出馬せず、1期限りの大統領として任期を終えるのではないかという声は彼の就任以前からささやかれている。それだけではなく、彼が任期を満了するまで大統領を続けることができるないのではいかという声もある。そして、そのような声は民主党内から噴出している。
上記のような声が出てくるひとつの理由としてバイデン氏の年齢に対する不安から来るものである。バイデン氏は現在79歳であり、既に今まで在任した大統領たちを押さえて、最高齢の大統領の称号を得ている。
もし再出馬をすれば、その時点では82歳であり、2期目の終わるころには86歳となる。70歳後半でも肉体面、精神面で衰えが深刻になってもおかしくないが、80歳という年に入るとその懸念は猶更である。いくら、現代社会において健康寿命が伸びていても、バイデン氏も人の子であり、老いという必然的な現象には抗うことができない。
さらに、バイデン氏不出馬を主張する人々の中には民主党の「顔」を変えることで、これからの国政選挙に勝てる蓋然性が高まるという魂胆を持った人々もいる。この場合、の代替案はハリス副大統領とブディジェッジ運輸長官である。
ハリスでは勝てない?
まず、バイデンの後継者として大本命なのはハリス副大統領である。彼女自身が歴史的な存在、退く大統領の後任として大体の場合はその人物の副大統領が大統領選に出るという慣例を考慮すれば、ハリス大統領候補の誕生はほぼ確実である。
しかし、彼女を大統領候補にする難点は何といっても人気がないことである。ハリス氏は大統領候補になるべく、民主党の予備選への出馬を模索していたが、予備選が始まる前になかなか支持が集まらないことを理由に撤退を発表した。そのため、ウォーレン氏やクロブチャー氏といった予備選で全国的な支持があることを証明した女性候補を差し置いて、ハリス氏が副大統領に選出された時は正直驚きであった。
さらに、副大統領になっても人気は一向に上向かない。バイデンは次期後継者として彼女に箔をつけようと重要課題に取り組むように指示するも、それらの課題が党派性が強いものであり、彼女の問題に対する知見がメディアを通して疑問符が付けられたことにより、支持率は下がり始めた。一方、彼女の支持率が下がる傾向を食いとどめようと、メディアの露出を減らしても、それは変わらず、最新の世論調査では何もしていないのにもかかわらず、バイデン氏より低い支持しかハリス氏は集めていない。
また、ハリスでは戦えないという危機感からブディジェッジ運輸長官を後継者にするべく、民主党内から出ている。
ブディジェッジ氏はハーバードとオックスフォードを卒業し、有名コンサル会社マッキンゼー・カンパニーを得て、29歳で初めてサウスベンドという十万人規模の都市の市長となったエリートである。さらに同性愛者であることを公言しており、アフガニスタンに従軍したという経歴をあることから、彼のプロフィールだけを見れば、大統領候補として適任である。
さらに、先日採択された一兆ドル規模の超党派インフラ法案のうち、5分の1以上の予算を任せられることから、今後政権内で多大な影響力を発揮していくことが予想される。そして、その実績次第では2024年にハリスを差し置いて大統領候補となる未来が現実味を帯びてくる。
バイデンは出馬するのか?
しかし、公式声明を見る限りでは、バイデン氏は2024年も大統領選に出る意欲があるそうだ。だが、わざわざ政権発足から一年足らずでそれを公にする必要があることは彼あの求心力の急落を物語っている。また、彼が出馬しないといった瞬間に政権がレームダック化してしまうことを考えると、予想通りの声明である。
まだまだ、2024年まで時間はあるものの、バイデン氏は出馬をしないのならば、時期を見誤ってはいけない。なぜなら、タイミング次第では民主党に打撃を与え、トランプの再選を許すことになるからである。