ZARAに与えるSHEINからの脅威
ZARAを傘下に収めるインディテックス社(Inditex)の最も重要な課題のひとつにネット販売の拡大がある。ところが、そこに強敵が現れている。中国で2008年に誕生したシー・インサイド(She Inside)という企業で、2015年に社名を現在のシーイン(Shein)に変更している。
Sheinはネット販売の売上ではZARAを追い越している
インディテックスのネット販売拡大への年間の投資額は2012年から毎年10億ユーロ(1200億円)をこれまで充てて来た。その成果あって昨年2021年は一昨年比で28%の伸びを見せ、2019年と比較すると124%も増加した。その売り上げの半分はZARAの商品である。
2022年にはネット販売による売り上げは全体の25%以上を占めるということを目標にして来てが、それが昨年末に達成されたという好調さであった。それを裏付けるべく、2019年に1億7500万人がフォロワーズであったのが、2020年にはその数は1億9900万人まで達成し、昨年は2億人を突破した。
ところが、ZARAのネット販売進展に立ち塞がっているのが企業がある。中国のSheinだ。同社 はネット販売だけに特化した企業で、すでに220ヶ国で販売ネットを構築している。その中の50ヶ国余りが主要市場となっている。Sheinの2020年のアプリによるダウンロード数はアマゾンを既に追い越している。
Sheinの2020年のネット販売額は82億5000万ユーロ(9900億円)でインディテックスの66億1200万ユーロ、H&Mの38億9500万ユーロの2社を遥かに追い越している。クレディ・スイスはShein の2021年の売上は190億ユーロに到達すると予測した(年明けの現時点では昨年の売上はまだ不明)。(2021年12月12日付「エル・エスパニョル」から引用)。
インディテックスの将来性はSheinに対抗できる手段を見つけることに依存
今年4月からインディテックスは創業者の娘マルタ・オルテガ氏が会長に就任して新しいスタートを切るが、Sheinの脅威の前にどのような取り組みを展開して行くのかということが今後のインディテックスの将来を占う最重要項目となっている。
インディテックスを16年に亘って会長兼CEOとして成長させ、世界のファストファッションのトップに育て上げたパブロ・イスラ氏がネット販売に総力を挙げて取り組んだのはアマゾンの脅威に対抗する為であった。
この4月に同社を去るイスラ氏の後任として会長マルタ・オルテガ氏とCEOオスカル・ガルシア・マセイラス氏の二人三脚の体制はアマゾン以外にSheinに対抗する取り組みをして行く必要に迫られることになる。
Sheinが出す新作の数はインディテックスを遥かに凌駕
アマゾン以上にSheinがインディテックスにとって脅威なのはその販売力の凄さである。
Sheinは試作から生産に取り掛かるまで僅か7日の所用期間が必要なだけで、しかも生産ロットも最初は100着からスタートとしてリスクを最小限に留める。市場で反応がよければ一挙に生産ロットを増やすシステムになっている。一方のインディテックスは市場に出すまでに14日が必要で生産ロットも最低500着からスタート。
Sheinは800人のデザイナーを抱え日毎に1000着を市場に出して反応を見ているという。即ち、年間で36万5000着を市場に問うて反応を見ているというのだ。インディテックスは700名のデザイナーで年間で2万着余りの新作を市場に出している。即ち、Shein でひと月に出す新作はインディテックスのおよそ1年分を超える数量という凄さである。(2021年7月24日付「テンデンシアス」から引用)。
Sheinの情報源はGoogleのトレンドを利用して流行のスタイル、色、生地などをいち早く掴んでそれをモデルのデザインの参考にする。これ以外はアパレル企業がどこでも行っているライバルのデザイン、ファッションショーや雑誌などから模写して行うやり方だ。
ファストファッション企業というのは傾向を掴んで如何に早く新作を出して行くかとことに重要な点がある。そこにはデザインを創作する時間はない。如何に早く市場にあるものを模写して市場に出すかということである。その面ではインディテックスが最も早く反応して市場に新作を出していた。
ところが、インディテックス以上に早く市場に商品を訴えて行く企業が現れたということなのである。それがSheinだ。
この速さを構築していくために商品の企画デザインから生産から供給に結び付けるのに中国国内に集中させていることである。例えば、インディテックスの場合は企画デザインはスペインのガリシア地方にある本部で行うが、生産は中国とアジア諸国やモロッコといった国に分散している。ガリシア地方でも生産しているがその比率は少ない。生産地から出来た商品をインディテックスの本部に入荷させ、そこから世界に出荷して行く体制だ。だからSheinでは企画から生産に1週間で出来上がるのが、インディテックスでは2週間が必要ということになる。
生産されたものを如何に多くの消費者に早く知らせるかという点についてもインディテックスには2億人近いフォロワーズがいる。Sheinは若い年代層の1万人あまりのインフルエンサーがTik TokやイスタグラムなどにSheinの購入した新作などをビデオで紹介してコメントを入れたりしている。その貢献度に対してコミッションが貰えるシステムになっている。その影響もあって現在アプリによるダウンロード数はアマゾンを既に追い越しているという。
この面でもインディテックスはこれからアマゾンだけでなくSheinとの、この2つの強敵に対抗して行かねばならないのである。
Sheinの商品価格はZARAよりも安価
インディテックスがSheinと比較して勝っているのは顧客への納品が世界のどこでも翌日から7日以内となっているのが、Sheinは少なくとも1週間と長くなっている。
しかし、Sheinの価格の安さは魅力である。ヨーロッパで激安ショップを展開しているアイルランド生まれのPRIMARKよりも価格は安いと評価されている。因みに、PRIMARKは激安での販売でマージンは非常に少ないとしてショップによる販売だけでネット販売は行っていない。
ZARAとSheinの同等品の価格を比較したものがスペインの電子紙「エル・エスパニョル」と「ファンシュ」に写真入りで掲載されている。以下にそれを紹介することにしたい。
- ZARA 29.95 EUROS / SHEIN 17 EUROS
- ZARA 29.95 EUROS / SHEIN 10 EUROS
- ZARA 25.95 EUROS / SHEIN 13 EUROS
- ZARA 90 EUROS / SHEIN 18 EUROS
- ZARA 25.95 EUROS / SHEIN 8 EUROS
- ZARA 39.95 EUROS / SHEIN 17 EUROS
- ZARA 9.95 EUROS / SHEIN 4 EUROS
- ZARA 25.95 EUROS / SHEIN 13 EUROS
- ZARA 29.95 EUROS / SHEIN 11 EUROS
- ZARA 29.95 EUROS / SHEIN 17 EUROS
以上「エル・エスパニョル」から。
- ZARA 40 EUROS / SHEIN 15 EUROS
- ZARA 16 EUROS / SHEIN 12 EUROS
以上「ファンシュ」から。
若者を対象にしたファッションというのは品質の良さよりも格好を重視する傾向にある。だから価格が安くて流行にのった格好の良いアパレルであれば購入しようという気持ちになる。というのも購入して2-3年すれば流行遅れになる。
だから長持ちする必要はないというのが今の若い消費者の考えだ。それに応えるには機関銃のごとく短い期間に品数多く市場に提供できるサプライヤーが市場を占有することになるのである。