会長・政治評論家 屋山 太郎
中国経済の様相が誰の目にも怪しく見えてくるようになった。中国政府は17日、21年の経済指標を発表したが、コロナの影響で成長率は前年同期比で4.0%だという。ここ20年程年6%台の成長を続けてきたが、コロナもあって、ここに来てとうとう息切れしてきたようだ。
元々中国の成長率は地方政府が中央政府の覚えをめでたくするために「ゲタをはかせて届けている」という。これは李克強首相が述べたもので「実質を知りたければ鉄道輸送量、銀行融資、電力消費の3つを見た方がいい」とも言っている。新鋭の経済評論家の朝香豊氏は『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(WAC)という著書の中で中国の6%成長神話をこう解説している。
中国人民大学教授で国際通貨研究所の副所長である向松祚氏は18年12月の講演でこう述べて物議を醸した。「国務院(内閣)直轄の特別チームが18年のGDP成長率は1.67%と内部試算した。マイナスだと試算したものもある」
18年の成長率は公式には6.6%となっているのだから、サバの読み様はケタ外れだ。これについて朝香氏は、18年は安易な資金調達はダメだとして金融を厳しく締め上げ、504万社の企業が破綻したとのニュースがネットに出たという。向教授は19年10月にも「企業利益は殆どマイナス成長、国家財政収入や国民所得も同様なのに、どのようにしたらGDP成長率が6%になるのか」と怒っている。
経済成長が上向きになれば、それだけ人が雇われるはず。ところが中国についてアジア開発銀行は、20年1~3月に6,290~9,520万人の失業が出たと推計している。朝香氏は21年1~3月期のGDPは25%減っていて、年率換算するとマイナス70%くらいになるのではないかとの見方を示している。
中国経済がそれまで順調に成長してきたことは疑いないが、それは3兆2,000億ドルに及ぶ豊富な外貨を保有していたからだと言われる。成長した分のドルを投資して、さらなる投資を呼ぶ。この好循環が続いてこその中国だったが、その大元の外貨準備高は不明だが、今や痩せ細ってきた。最近は個人の海外での現金引き出しの限度額は15,000ドル相当までに絞られた。
土木工事や建設業は最も利益の上がる産業だったが、中国最大の不動産会社、恒大産業がいつ倒産かというという事態に来ている。倒産させれば中国経済は瀕死状態になりかねない。償還期限が来た債権者に催促させない状態が続いている。
国内で投資するところがないので、「一帯一路」に身を乗り出した。これは外貨が欲しいのが最大の動機である。アジア各国との契約はドル建てになっているが、各国が支払えるのは元か現地通貨。一帯一路の計画自体も荒っぽさが目立ってきた。中国の成長率も評判も下向きだ。
(令和4年1月26日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。