チリのリチウム開発を2社が落札したが・・・
1月12日、チリ鉱業・エネルギー省はリチウム採掘権の入札ついて中国の電気自動車比亜迪のチリ法人(BYD Chile SpA)と地元チリのセルビシオス・イ・オペラシオネス・ミネラス・デル・ノルテ(Servicios y Operaciones Mineras del Norte, S.A.)の2社が落札したことを明らかにした。
ところが、この落札が問題視されている。というのも、現大統領セバスチアン・ピニェラ氏はこの3月に任期満了を迎えることになっており、政権の移譲が実施されている中での駆け込み決定であるということと、次期大統領となるガブリエル・ボリッチ氏はリチウムの開発については将来の国家プランとして入札にかける前に円卓会議にて協議する意向を示し、ピニェラ大統領にはこの入札を中止するように要請していたからだ。
ボリッチ氏には国家の新しい産業発展の為にリチウム国営公社の創設を構想している。この国営公社が民間企業と連携して生産性を高めて行こうとするものだ。だから、この国家プランを協議検討する前にピニェラ大統領が民間企業2社に採掘権を付与したということにボリッチ氏は非常に悪いニュースだと判断し、入札内容を逐一調査する意向を表明している。
またチリの野党もピニェラ大統領の任期満了が迫っている中でのこの決定に反対を表明しており法廷または議会を通してこの入札を無効にする意向を表明している。下院の鉱業委員会のエステバン・ベラスケス会長も野党のこの意向に同調することを表明している。
リチウムの開発に原油OPECのような機構を創設する意向がある
その一方で、アルゼンチン、ボリビア、チリの3か国とでリチウムの開発生産に原油のOPECのような機構を創設するプランがある。(1月16日付「ラ・ポリティカ・オンライン」から引用)。
左派系のボリッチ氏が3月にチリの大統領に就任するということで、このプランの立案者であるアルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領はこの機構の創設がさらに容易になると判断している。ボリビアはエボ・モラレス元大統領の政権で財務相だったルイス・アルセ氏が現在大統領に就いている。
今回の2社の落札を中断させる命令が下った
ピニェラ大統領の駆け込み決定に批判が集中している中で、1月14日、アタカマ地方の都市コピアポの法廷は今回の2社の落札を中断させる命令を下した。この訴訟を起こしたのはアタカマ地方の州知事ミゲル・バルガス氏で、同氏はアタカマ地方の住民は法の前に平等であり環境保護そして観光の発展と自由経済を守る為の配慮が今回の落札には盛り込まれているべきだとし、今回の落札にはそれが配慮されていないという理由からだ。この訴訟には左派系の野党議員の一部グループも加わっていた。(1月14日付「パナム・ポスト」から引用)。
余談ながら、ピニェラ氏が最初に大統領になった政権時の2010年に銅鉱山の落盤事故が発生し地下630メートルの地点に33人の鉱夫が閉じ込められるという事件があった。2か月後に彼らは全員救出されたのであるが、この事件が発生したのが正に今回の落札中断を命令した法廷があるコピアポであった。
しかも、あの事件では鉱夫全員を救出させるとして陣頭指揮を執ったピニェラ大統領が市民から賞賛されたが、今回は逆に同大統領に批判が集中した。
チリはリチウムの開発で遅れをとっている
今回ピニェラ大統領が民間企業2社に落札させたのも、2016年までチリはリチウムの世界生産量の中で37%を占めてトップにあった。ところが、現在はオーストラリアが46%を占め、チリは32%で2位となり、それに続いて中国の10%、アルゼンチンの8%となっている。しかし、現在の生産量を挙げないことには2030年にはチリは17%を占めるだけになってしまう。
それを回避するには生産量を挙げねばならないとして入札を開始。当初5社が入札に参加、中国BYD、米国アルベマーレ、チリのコサヤック・カリチェ、同じくチリのセルビシオス・イ・オペラシオネス・ミネラス・デル・ノルテの5社であった。結局最初の1社と最後の1社が今回落札したというわけである。
中国BYDが落札した背景には、恐らくチリがラテンアメリカでどこよりも先駆けてワクチン接種を普及させた。それも中国からの協力があったからだ。その縁が間接的に影響して今回のBYDの落札に繋がった可能性は十分にある。
ところが、中国製のワクチンの感染予防効果の率は低く、ワクチン接種率がラテンアメリカで最も高い比率を示したにも拘らず感染者が増えたという背景もあった。