700MHz帯こそオークションで

山田 肇

1月6日付の日本経済新聞記事『来年度予算案、政策仕分け軽視、診療報酬など増額に』にあるように、提言型政策仕分けは「大山鳴動してねずみ一匹」に終わった。電波行政では、「3.9世代(900/700MHz)からオークション導入」という提言に対して、電波部は導入しない方針である。

900では比較審査のプロセスがスタートしており、700でも今年中に比較審査を実施しようと電波部は動いている。理由は900と同様に「スマートフォンの急増で電波がひっ迫しているから」である。

しかし待ってほしい。700には900と異なる事情がある。


700では、テレビ中継(FPU)とラジオマイクが今使っている周波数を携帯電話基地局が、テレビのデジタル化で空いた周波数を携帯電話端末が利用する予定である。

しかし、FPU等の移転計画はまだ定まっていない。900での比較審査実施を強行決定した電波監理審議会(2011年12月9日)後に発表された『会長会見資料』にあるとおり、FPUとラジオマイクは「他の周波数へ移行(検討中)」に過ぎない。より詳しくは、昨年9月に改定された『周波数再編アクションプラン』を見ればよい。FPUは「移行先の周波数帯候補を1.2GHz帯又は2.3GHz帯として、周波数移行に関する技術的検討を進めるなど周波数移行に向けた検討・作業を実施する」ことになっており、ラジオマイクは「周波数帯候補を地上テレビジョン放送用周波数帯のホワイトスペース又は1.2GHz帯として、周波数移行に関する技術的検討を進めるなど周波数移行に向けた検討・作業を実施する」ことになっている。

移行先や利用技術の詳細を定めるのは、これからだ。この「検討・作業」には1、2年はかかる。その先、実際に移行した後、初めて基地局用として利用可能になる。「ひっ迫する電波需要に応えるためにすぐに免許を交付したい」という電波部の言い分は、自らの計画によって否定されている。

端末側周波数については、テレビのデジタル化に対する国民の負担を考える必要がある。計算してみよう。

まずはテレビ局の負担。NHKでは当初3850億円を投資し、その後660億円が追加された。民間放送は1兆440億円。したがってテレビ局全体では1兆4950億円が投じられた。

次は電波利用料。当初はアナ・アナ変換に約1800億円。その後、「地上デジタル放送への円滑な移行のための環境整備・支援」という枠組みが追加され、2009年度は630億円、2010年度は960億円、2011年度は当初予算だけで660億円が投じられた。総計は4050億円という計算になる。

上の二つの合計はおよそ2兆円だ。しかし、国民が負担したものはそれよりも大きい。電子情報技術産業協会(JEITA)によるとデジタルテレビの国内出荷実績は、2011年7月までの累計で1億2660万台である。金額ベースでの統計は見つからないので、仮に1台5万円をかけると6兆3300億円ということになる。1世帯ごとではテレビを数台買い換えただけだが、全世帯合計するとこのように膨大な金額になる。

このように国民が最大の負担をしてデジタル化が完成し、生まれた空き周波数が携帯電話事業者に渡されるのである。リーマンショック後の決算で過去最高益を記録した事業者が出たほど、携帯電話の採算性は高い。そんな事業者にタダで周波数を渡し営利事業を営ませるのが社会的に公正なのか、大きな疑問である。

山田肇 - 東洋大学経済学部