コロナワクチン接種後の死亡事例はなぜ因果関係が立証されないのか①

小島 勢二

厚生科学審議会へ資料として提出される新型コロナワクチン接種後の死亡事例は、2022年5月13日の時点で総計1690件に達する。このうち、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会でワクチン接種との因果関係がありと判定された事例は1例もなく、99%以上を占める1680件は、情報不足により因果関係が評価できないと判定されている。

ワクチン接種後に死亡した事例の原因は多岐にわたるが、3つに大別できる。

1つ目はワクチン接種が直接死亡に関連すると考えられる疾患で、アナフィラキシー 、心筋炎・心膜炎やワクチン起因性自己免疫性血栓性血小板減少症が含まれる。この3疾患については厚労省も因果関係を認めており別枠扱いである。

2つ目はくも膜下出血や自己免疫性血小板減少症(ITP)のように、コロナワクチン以外の原因はあるものの、発症機序からワクチンの関与を否定できない疾患、3つ目は、ワクチン接種が原因とは考えにくい疾患である。

Paul Campbell/iStock

ワクチン接種と疾患発生との因果関係を証明するのによく使われるのは、ワクチン接種群と非接種群とでその疾患の発生頻度を比較する方法である。しかし、比較試験で統計学的な有意差がついても、対象となる疾患の患者が全てワクチンとの因果関係があるわけではない。コロナワクチン以外が原因で発症することもあり、統計学的に有意と言っても、因果関係があるのはそのうちの一部の患者に過ぎない。

反対に、統計学的に有意差がなくても、ワクチン接種と因果関係がないと断定できるわけでもない。発生頻度が低い疾患では、有意差が得られず、実際は因果関係があっても、なしとされてしまうこともありうる。

アナフィラキシーを発症しても因果関係ありとされない理由

アナフィラキシーは、食物や薬品を摂取した後に、急激に発症する全身症状を指し、蕁麻疹などの皮膚症状、喘鳴や呼吸困難などの呼吸器症状、腹痛や嘔吐などの消化器症状が含まれる。血圧の低下や意識障害がみられる場合は、アナフィラキシーショックと呼ばれ、生命に関わる重篤な状態である。

病歴や症状から診断をつけるのは困難ではないが、報告医がアナフィラキシーと診断しても、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の専門員によってアナフィラキシーとは診断されない場合が多々ある。

アナフィラキシーはブライトン分類に従ってレベル1からレベル5までに分類されるが、レベル1〜3がアナフィラキシー、レベル4は十分な情報が得られていないのでアナフィラキシーと診断できない、レベル5はアナフィラキシーではないと判定される。

日本では、報告医がコロナワクチン接種後のアナフィラキシーと診断した1407人のうち、専門員によって1135人(80%)がレベル4と判定されている。

レベル4と判定された症例の概要を記す。

【症例】
ワクチン筋注後5分後に鼻汁、咳そうの出現、みるみる呼吸困難が出現し、気道狭窄症状が著明となり、ボスミン筋注計4回、ステロイド、抗ヒスタミン薬等の薬物治療を行い回復。その後、経過観察目的で入院となる。

この経過について、ほとんどの臨床医はアナフィラキシーと診断するに違いない。ちなみに、専門員がブライトン分類に従って、レベル1〜3と診断した47人とレベル4と診断した31人の臨床所見を比較したところ、臨床所見の頻度に両群間の差はなかった。かえって、レベル4と判定された患者群の方が、アナフィラキシーの既往歴が多く、また、病気の重症度も有意に高かった(表)。ブライトン分類がレベル4と判定された場合、その多くはアナフィラキシーと考えられる。

表 ブライトン分類レベル1〜3の症例とレベル4の症例との比較

厚生科学審議会に提出された死亡事例のうち、13人はアナフィラキシーが死因とされているが、全て、ワクチンとの因果関係は不明である。このうち、臨床経過が詳述されており、かつ剖検もされた89歳の女性を紹介する。

経過:X月X日午前10時15分にワクチンを接種。11時前まで経過をみて帰院。11時19分に家族から呼吸状態がおかしいとの連絡が入り、緊急往診。11時25分の往診時には心肺停止状態。ほぼ同時に到着した救急隊と共同で気管挿管、胸骨圧迫、アドレナリン静注を行い、11時52分に近隣の救命センターに救急搬送。搬入時、心停止状態。蘇生処置を続けたが心拍の再開なく死亡。

報告者の評価:接種から約45分間患者宅にとどまり経過観察。途中で測定した血圧は157/80mmHg。午前11時前に患者宅を辞する際には、手を挙げて挨拶があった。この時から電話がかかってくる11時19分までの間に呼吸状態が急変した模様。緊急往診し救急隊と蘇生処置を行う時点で心停止の状態であった。

剖検医の診断:アナフィラキシーショックの疑い。

専門員による評価:臨床データは情報が十分でなく、ブライトン分類は4相当と考えられる。但し、剖検で喉頭浮腫がみられており、この原因は気管挿管による可能性はあるが死亡までの経過が短いこと、症状が出にくい高齢者であること、剖検所見が窒息による急死として矛盾しないこと等から、ワクチン接種の関与を否定できない。

筆者の見解:アナフィラキシーの最も重要な病理所見は喉頭浮腫である。喉頭浮腫が確認されれば、アナフィラキシーの診断は確定する。気管内挿管の結果生じた傷とアナフィラキシーによる喉頭浮腫との鑑別は、病理医にとって困難とは思えない。ブライトン分類がレベル4と判定された結果、アナフィラキシーと診断されず因果関係が不明と判定されたのならば、病理所見を覆して、専門員がレベル4と判定した根拠について知りたい。

心筋炎と診断されても因果関係が不明となる理由

心筋炎は、ウイルス感染症や薬剤などが原因で、心臓の筋肉が炎症を起こした状態である。息切れ、浮腫、胸痛などの症状がみられるが、時に突然死を起こすことがある。新型コロナワクチンの接種後に発症することも知られており、思春期や若年成人、とりわけ男性にリスクが高いことが報告されている。

日本ではこれまで15人の心筋炎による死亡例が報告されているが、1人もワクチンとの因果関係は認められていない。病理診断で心筋炎の診断がついているのにもかかわらず、因果関係不明のγ判定となった症例を紹介する。

経過:27歳のプロスポーツ選手である。ワクチン接種8日後の練習中に倒れて救急搬送されたが、ワクチン接種35日後、心筋炎発症27日後に死亡。

剖検医の診断:心筋炎

専門員による評価:剖検で心筋炎の確定診断がなされているため、心筋炎の診断自体は妥当と考えられる。7月6日の心室細動、心停止の原因の一つとしては、心筋炎の発症が時間的関連からは疑われる。その一方で、心拍再開後の心エコーで認められた高度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)が、左房径の著明な拡大を伴っていたことから、MR自体はワクチン投与前より存在していた可能性も高く、また原疾患・合併症・既往歴の欄に心室性期外収縮(PVC)の記載もあるため、心筋炎の発症が既存のMRやPVCの病態を悪化させ、心室細動・心停止に至った可能性も考えられる。実際、補助循環用ポンプカテーテルの離脱後の7月17日の心エコーでは、左心系の高度な拡大は継続しているものの、肉眼的な心室の駆出率は45%程度と比較的保たれていることから、8月3日の多臓器不全・心停止は、心筋炎による低心機能のみが原因とは積極的には疑いにくいとも考えられ、併存病態の高度MRによる心不全の悪化も多臓器不全に寄与しているとも考えうる。ワクチン接種後8日目の発症ということから、ワクチンが原因である可能性は排除できないと考えるが、一方で得られている情報からは、ワクチンが原因であることを示唆する根拠は時間的関連性のみとも考えられる(ウイルス性による発症も否定はできない)ため、ワクチン接種が心筋炎の原因だと強く疑うことは困難と考える。

筆者の見解:専門員は併存していた高度のMRが死亡に関与していたことを強調しているが、症例はプロスポーツ選手で、激しい運動を行ってきたことを考えると、以前から高度のMRがあったとは考えにくい。心筋炎が、MRの原因であることは教科書にも記載されており、MRは心筋炎の合併症と考えるのが普通である。

専門員は、心筋炎の原因としてウイルスによる発症も否定できないとコメントしている。ウイルス感染が原因ならば、通常、心筋炎発症の数日前に感冒症状や胃腸炎症状がみられる。患者はワクチン接種8日目に心筋炎を発症しているが、この間、練習に参加していたことから、感染症に罹患していたとは考えにくい。

専門員はワクチンが原因であることを示唆する根拠は時間的関連性のみとも考えられるとコメントしているが、心筋炎の場合に原因を特定するには、侵襲を伴う心筋生検でウイルスを検出する以外に方法はなく、通常、臨床現場での診断は時間的関連性に基づいて行われる。

抗血小板第4因子(PF4)抗体が陽性でありながら、ワクチン接種との因果関係が不明となった血栓性血小板減少症(TTS)

TTSは、全身の微小血管に血栓が形成されることで発症する重篤な疾患である。コロナワクチンの接種後に、TTSが発症することが報告され、抗PF4抗体の出現が本症の発症と関連することが明らかになった。日本脳卒中学会・日本血栓止血学会が発行した診断の手引きにおいても、抗PF4抗体陽性が診断根拠とされている。

これまで、日本では12人のTTSによる死亡例が報告されているが、ワクチン接種との因果関係を認定された例はない。抗PF4抗体が陽性でありながら、ワクチン接種との因果関係は不明となった47歳の男性を紹介する。

経過:2回目のワクチン接種翌日から不穏状態。体幹、四肢に著明な出血斑出現。血小板減少を確認。ワクチン接種6日後に脳出血で死亡。

剖検医の診断:血清髄液。橋出血による脳ヘルニアが存在。抗PF4抗体陽性よりTTSによる脳出血と診断。

専門員による評価:脳静脈洞には明らかな血栓は認めなかったものの、経過などからはTTSに伴う脳静脈血栓症も否定しきれない印象である。サイトカインストームなどによる急性脳症の可能性も考えられる。いずれにしても、40代の特記すべき基礎疾患のない症例であり、 ワクチン接種と死亡との因果関係を完全に否定することは出来ず、更なる情報の収集・解析が望まれる。 血小板減少を認めること、画像所見や検査値異常(Dダイマー上昇)は血栓症を示唆するが確定的ではない。抗PF4体が陽性であり、事象は ワクチン投与に関連する可能性が大きいと考える。

筆者の見解:第79回厚生科学審議会に提出された副反応報告には、ファイザーから55人、モデルナ・武田から12人、アストラゼネカから2人のTTS症例が報告されている。このうち抗PF4抗体陽性の2人がワクチン接種との因果関係が認められα判定となっている。接種ワクチンはアストラゼネカが製造したアデノウイルスベクターワクチンであり、死亡していないので、この2人がα判定となったのか、ファイザーワクチン接種後に死亡した症例は、抗PF4抗体が陽性でありながら、なぜγ判定となったのか理由が不明である。

これまで、厚生科学審議会に報告された新型コロナワクチン接種後に発生した1690件の死亡事例のうち、担当医がワクチン接種との因果関係ありと報告した件数が112件、病理解剖された件数が115件、さらに病理解剖されかつ因果関係ありとされた件数が28件あったが、検討部会では全て因果関係は評価できないとしてγ判定となっている。

実際に患者を診察した医師や解剖にあたった病理医の判断とは異なる判定を下すには、それなりの根拠が必要である。99%がγ判定とされている現状から、判定基準を外部に周知する必要があると思われる。

コロナワクチン接種後の死亡事例の因果関係を考えるにあたっては、その死因を3つに区分すると理解しやすい。

今回、紹介したアナフィラキシーやワクチン起因性TTSなどワクチン接種と疾患発症との関連性が証明されている疾患については、診断が確定すれば因果関係ありと考えてもよい。この基準に照らせば、因果関係ありと判定してもよいケースは少なからずみられる。遺族にとって、検討部会での判定は最後の拠り所だけに、遺族に不信感を与える判定は避けなければならない。

(次回に続く)