第三者的な言い方をすればアメリカにはバイデン氏とトランプ氏しかいないのか、ということではないでしょうか?中間選挙が終われば2年後の大統領選が視野に入ってくるわけですが、プレイヤーが少なすぎる、これが私がずっと思っているアメリカの弱点です。
政治の世界は何らかの知名度が必要なのは洋の東西を問いません。古い話ですが、山内一豊は織田、豊臣、徳川三代に渡り仕えた唯一の大名です。関ヶ原で目立った功績もなかったのですが、家康の一言で「栄転」となり土佐への領地替えとなりました。追放された長曾我部氏に長くなじんでいた地元では「山内?誰だ、それ?」となり、地元の説得工作にいたく苦労した話があります。
このように無名人が突然、自分たちの領主になるのは一般人にとって「何をしてくれるのかわからない」という恐怖心があるのでしょう。では名前を知っていれば何でもよいのか、という奇妙な風潮を作ったのが映画や芸能、作家などの経験者を祭り上げる戦略ではないでしょうか?歴代の都知事はそれに当てはまる人ばかりでしょう。カリフォルニアのシュワルツェネッガー氏も同様だし、ドナルド レーガン元大統領も元俳優、ウクライナのゼレンスキー大統領は元コメディアンであるのもご承知の通りです。
国家元首に限らず議員レベルになると名の知れた人を候補にするのは政党政治の常套手段で結構な頻度で珍妙な人が当選したりします。あるいは名ばかりで実力が伴わず着実に力がそがれていく都民ファーストの会というのもあります。二世議員も同様で「あのお父さんは立派な人だったから」という理由で地盤を引き継いだりするのですが、それでは議員職が血筋や閨閥といった身内重用主義から抜けられないというリスクもあります。
バイデン氏、トランプ氏共に知名度は文句なしでありますが、両名を支持しているのかといえばこれは怪しいものです。民主党支持者の75%がバイデン氏を望まないし、共和党支持者の55%がトランプ氏再登板を望んでいません。今般、トランプ氏にFBIの家宅捜索が入りました。何が出てくるのか、それなりの自信を持っての捜査であることは確実なのでトランプ氏側にとっては一定の痛手があるのでしょう。
一方、バイデン氏が先日訪れた中東での外遊について日経の編集委員記事に「サウジ皇太子の意趣返し トランプ時代回帰へ危うい賭け」とあります。記事の内容にはバイデン氏はカショギ氏暗殺に国家がかかわった疑惑を捨てきれず、強烈な批判を繰り返していました。その為、冷たい関係になっていた両国関係はサウジ訪問の際もあっけないものだったと記されています。これではチキンレースなのです。バイデン氏とトランプ氏のどちらが弱いのか、です。
アメリカの威信がさび付いているのではないか、という推測はさほど外していないと思います。いや、むしろかつてのアメリカを知っている人にとっては物足りないのでしょう。今はその過渡期にある、それが正解です。とすればバイデン氏やトランプ氏のような高齢者に託すより若い将来に夢と希望がある人物がリーダーシップをとるべきだというのは言を俟ちません。
前回の大統領選の前哨戦である民主党候補を選ぶプロセスでは民主党内部から立候補者が大挙し、かつ、その方針はポピュリズムから原理的な思想まで私から見れば「1点豪華主義」の政策を振りかざしたわけです。その「1点」がポピュリズムの極みであり、コアなファン層から確実な票を取るという戦略でした。ふたを開けてみれば「1点豪華」より「どれも特等ではないけれど落第点もすくない」バイデン氏が選ばれました。
トランプ氏は独特の言い回しで「3点」でも「5点」でも挙げると主張し、実際に何らかの手立ては打ってきたという強みがあります。実業家だけに出来もしないウソは言わないということでしょう。
私が期待するアメリカとは国内世論をある程度まとめ、世界に新たな方向性を暗示し、アメリカがそこに向かって強いリーダーシップを見せ、他国がそれにフォローできる前向きな力強さです。それにはアメリカが自己保身にならず、高い交渉力と調整能力を備えることであり、同盟国との協調も求められるでしょう。
共和党からはフロリダのデサンテス フロリダ州知事など候補者となりうる名前がぽつぽつ上がり始めています。共和党にとって最大のハードルはトランプ氏の存在が味方するのか邪魔になるのかであり、それを早く決めることでしょう。一方、民主党は私の見る限り一枚岩にはなれない烏合の衆となりつつあります。
とすれば共和党が少しだけ左に寄せて民主党の票を奪い取ることは可能かもしれません。もちろん、ブレない共和党という発想もありますが、移民国家ならではの民主主義が尊重される時代がより強調されていることはこの数十年の特徴かと思います。ならば、共和党としてトランプ氏は邪魔だという結論になる可能性も大いにあると私は予想しています。
今後の展開のオプションとしては、これから2年の間に共和党の大統領候補たちがネームバリューを上げ、「誰でも知っているあの人、この人」を数名、早急に生み出すことではないでしょうか?トランプ氏の呪縛に囚われていたら共和党は選挙に勝てても世界に勝てないとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月12日の記事より転載させていただきました。