円安加速で「日本円の葬送行進曲」を奏でる日銀

Thomas Faull/iStock

まるで「円の国葬」ではないか

130円台前半まで戻した円は再び下落に転じ、1ドル=140円をつけ、24年ぶりの安値を記録しました。米FRB(中央銀行)のパウエル議長は「経済に影響が出てもインフレ抑制を優先する」構えで、政策の方向性について意思を明確に示しています。

欧米の金融引き締めに対し、日本は超金融緩和を継続する構えで、「日本だけが別の世界にいるようだ」(日経)です。しかも鈴木蔵相が「急激な円安は好ましくない」と発言しただけです。肝心の日銀総裁は「ちょっとだけ金利を上げても円安は是正できない」と、白々しい発言です。

円の価値をさらに減価させ、政府部門の債務(国債)を軽くしようとしているのでしょうか。動くに動けなくなった状況からどう脱出するのかの、意思表示が何もない。「円の葬送行進曲」、「円の国葬」という表現を政府、日銀に差し上げたい気持ちになります。

24年ぶりの円安、年初来25円の円安で輸入物価が高騰し、8月の消費者物価は2.9%(都内)も上がり、年末には3%の見込みです。秋以降、生活関連物資の値上がりがめじろ押しです。

消費者や中小企業は困っている。日本全体を考えると、日本の安売りです。ドル建ての日本経済の価値はどんどん下がり、一人当たりのGDPは主要国の中で最低に落ちました。

重大な局面なのに、黒田日銀総裁は今後、どのような金融政策をとるのか明らかにしていません。政府部門の巨大な債務(1000兆円を超す国債)をインフレでどんどん減価させるしか道がないと思っているのか。

米連銀では、パウエル議長ばかりでなく、理事らが「9月も政策金利を0.75%引き上げる」との感触を自由に表明しています。日銀理事らは発言の自由がないのか、何を考えているのかが分からない。酷いものです。

市場関係者ばかりでなく、国民が知りたいのは「超金融緩和の出口をどう考えているのか」、「超金融緩和と一体になっている財政膨張の出口をどうするのか」、「その際に生じる経済へのマイナスの影響にどう対応するか」です。それについて政府、日銀からは何の発言もない。

これほど無責任なことがあるのでしょうか。「これまでやってきた財政金融政策(アベノミクス)の誤りがあまりにも大きく、動くに動けない」、「金利を上げると、国債費(利子負担)が増え、財政危機が悪化する」、「日銀も債務超過に向かう恐れがあり、円の信認が失われる」。多くの外部の識者はそう想像しています。

国が救済に乗り出そうとしても、国債で資金を調達するしかない。国債をまるまる買いに回っていた日銀にはそんな体力はありません。政府、日銀は堂々巡りの状況に自ら追い込んだきたのです。

途上国がやっているように、高金利の国債を出せば買い手がつくかもしれない。買うのは中国でしょうか。安倍、岸田政権の中国敵視政策からすると、それはできない。だから「どうするか」と国民は聞きたい。

米FRBの金融政策は、政権からの自由、独立、中立を保っています。日本はアベノミクスの導入の際、日銀を政府と一体の存在に変えたので、独自の判断では動けない。安倍・元首相は「日銀は政府の子会社」と本音を吐いた。それなら「最後は政府が責任をとる。このようにとる」というべきでした。

それなら政府、日銀が一体になって、財政、金融政策の出口を構築し、まず明らかにすればいい。それをしない。岸田政権は「新しい資本主義」と持ち歌にしている。その前に財政、金融政策の出口論があるべきなのに、それがない「新しい資本主義」とは何なのか。

主要国では金利引き上げで金融正常化を目指す一方、「米FRBは繰り延べ税金資産を計上する」、「ECB(欧州中銀)は中央銀行の財務の健全性の維持を重視する」、「独は国庫納付金を20年度からゼロにした」など対策を考えています。

日本は主要国最悪なのに、出口論は封印されたままです。海外からエコノミストが来日すると「財政再建について日本はどのような議論が行われているか」と聞く。伊藤元重・東大名誉教授は「そういえば、最近、その議論がほどんどない」と指摘します。情けないことです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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