メジャーリーグ年間MVP候補2人、どちらかを選ぶとしたら? --- 鎌田 陽舟

メジャーリーグでは、月間MVPと週間MVPを2人選べる。月間MVPは、野手と投手の評価軸、選手層の違いを考慮して、リーグ別に投手・野手各1人選ばれる。週間MVPは、リーグ別に投手・野手含めて1人又は2人である。

それなのにメジャーリーグの年間MVPは1人のみ。これでは、もともと少し無理があると言わざるを得ない。それなのに1人のみとしてきたのは、サイヤング賞という投手対象の賞があるためではないか。MVPは主に野手を選ぶようにすることで、実質的に投手と野手を一人ずつ選んできたために、今まではそれほど問題なかったのだろう。そう、大谷選手が現れるまでは。

大谷選手とヤンキースのジャッジ選手
NHKより

私は、年間MVPは、「原則1人だが、特別な理由があるときは2人も可」というように、柔軟性を持たせた方がいいと思う。

理由は二つ。一つは、最も価値のある選手と場合の「価値」は、いろいろな観点、尺度があり得るから。チームのための価値だけでなく、メジャーリーグ全体にとっての価値もある。そこにはいろいろな価値判断があり得る。MVPの選出根拠として最近最も重視されているWARという評価指標は、チームのための価値を測る指標であり、メジャーリーグ全体にとっての価値は測れない。

もう一つは、WARという評価指標がまだ開発途上で、しっかり確立されていないから。WARには主に2種類あり(rWARとfWAR)、細かくはもっとある。大谷選手を例外として上位に野手ばかりが並んでいるのは、算出方法が野手にとって有利だからでないか。

今までは、MVPは主に野手という意識で選ばれてきたので、それでよかったのだろう。しかし、大谷選手の登場で、公平さが欠けているという指摘が具体的にされ始めている。例えば、大谷選手は指名打者として守備に貢献していないという理由で、1.2もマイナスされているが、大谷選手は先発投手なので、マイナスされるのはおかしいとベン・バーランダー氏注1)が指摘している。

大谷選手の出現で、すでにメジャーリーグは投手が降板後も指名打者として出場できるようルールを変更した実績がある。今回のMVP論争が激しくなるにつれて、MVP選出のあり方を問う声が大きくなってきている。適切な改正を望みたい。

どちらか一人のみを選ぶとしたら・・・?

現在のWAR指標に依拠するだけでは、不十分である。比較するのであれば、まず、チームにとっての価値を比較するために、大谷選手が今季ヤンキースにいて、ジャッジ選手がエンゼルスにいたら、それぞれどれだけチームのために貢献できたか、を考えるとわかりやすい。

大谷選手はヤンキースで、打者として最も優れ、投手としても防御率が最も低く、最も優れた投手(勝利数ではコーンと同等)である。ジャッジ選手はエンゼルスで最も優れた打者であるが、エンゼルスはエースを欠いてしまう。さて、どっちがチームのために貢献できるか?WARよりもはっきりと比較できるのではないだろうか。

そこにメジャーリーグ全体にとっての価値を加味したら・・・。どちらがMVPにふさわしいかは、もう明らかではないだろうか?

もっとも私自身はMVP至上論者ではない。たとえMVPに大谷選手が選ばれなかったとしても、最も印象に残った選手(Most Impressive Player: MIP)は何と言っても大谷選手。歴史に刻まれる最も卓越した選手(Most Outstanding Player: MOP)も大谷選手であることは揺るぎようがない。

ベン・バーランダー氏も言っている。

ジャッジは歴史を追いかけているが、大谷は歴史そのものだ。

ジャッジは、一つの記録を破るかもしれないが、大谷は出場のたびにさまざまな記録を生み出している。

注1)ベン・バーランダー(Ben Verlander)氏は、フォックス・スポーツの解説者。現在サイヤング賞の最有力候補であるジャスティン・バーランダー投手の弟。

鎌田 陽舟
宙の学舎代表。独立研究者。