先日、労働関連のとあるニュースが目に留まりました。
【参考リンク】講師の「腐ったミカン」発言、追手門学院の意向 元職員に労災認定
要約すると、リストラされそうになったけどしがみついてたら外部講師に「腐ったミカン」呼ばわりされ続けうつ病になりました、それで今回やっと労基署から労災認定されました、というお話です。
そのこと自体の是非をここでとやかく言うつもりはありません。ただ筆者が気になったのは「悪の会社をやっつけて従業員が勝った」「無事元鞘に戻れて良かったですね」みたいな受け止め方をしている人が結構いることです。
筆者には、誰一人トクをした人間はいないように見えますが……
いい機会なので日本型雇用とその中に生じる“閉塞感”についてまとめておきましょう。
労働者、労組、会社、誰も幸せにしない終身雇用というシステム
まず大前提として、終身雇用では原則よほどのことがないかぎり人を辞めさせられないので、会社は辞めさせたい人を辞めるように「追い込む」ことを普通にやります。
だって景気には波があるんだから仕方ないですよね。これは良い悪いじゃなく、夏は暑く、冬は寒いのと同じように「日本企業は従業員を追い込む」もんだと思ってください。
ちなみに本件を嬉しそうに報じている朝日新聞社は、リストラ候補の50代ベテラン記者に社内のコピー取りやらせて追い込んでいるそうです。
【参考リンク】9月、朝日新聞で「過去最大級のリストラ」が始まる
追い出し業務の一環として中高年に社内の雑務やらせることを、筆者は「市中引き回し」と呼んでいます。
20代の若手に「先輩!30部コピーしといて!はいトロトロしない!ダッシュ!」とか「あんたその年でコピー機も使えないのかよwwwww」とかいびらせることで精神的に追い込むわけです。
高額の割増退職金という脱出口があるから心が壊れないだけで、「腐ったミカン」呼ばわりされるのより3倍くらいメンタル破壊力あるんじゃないですかね。
追手門学院ですか?従業員百数十人の会社らしいので、むしろ大手でないのにコンプラ意識の高い真面目な会社だと思いますね。ま、日本ではコンプライアンス意識が高ければ高いほど従業員がぶっ壊れるわけですが。
では、本件では誰がトクをしたんでしょうか。まず全国紙で恥をさらした会社は“やられ損”でしょう。
たぶん少子化で学生減でリストラに追い込まれたんでしょう。でも小所帯なもんで「業務連携支援センター」みたいな追い出し部屋作ってコピー取りさせてる余裕なんてないから外部コンサルに依頼した結果でしょう。
労組ですか?会社が用意できる人件費が増えるわけではないので、他の従業員の賃金削って仕事の無くなった人たちを引き続き雇い続けるだけですね。
従業員百数十人で対象となった10人くらいを引き続き雇い続けるって結構な負担じゃないですかね。“払い損”ですね。
最後にリストラのターゲットにされていた対象者たちですが、おそらく完全に元のさやというわけにはいかないでしょうね。だって仕事自体が無いわけで。
新しい仕事なりなんなりをあてがわれるんでしょうけど、「お前は腐ったミカンだ」みたいなこと言われた会社でゼロからリスタートできるものなんですかね?ものすごく居心地悪いと思うんですけど。
今50歳として、65歳、あるいは70歳まで冷戦状態が続く可能性すらありますね。というか本当の地獄はこれからなんじゃないですかね。
ひょっとすると「なら転職すればいい」と思う人もいるかもしれません。だったら“壊れ損”になる前にとっととそんな会社から転職すれば良かったんじゃないですかね。
という具合に、みんながみんな不幸になってるようにしか見えないんですよね。
そろそろ日本人は「終身雇用こそが幸せである」という終身雇用原理主義から目を覚ます時期に来ているような気がします。
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以降、
これからのキャリアデザインの基本は「さくっと辞められる人間」
会社を辞められなかったバブル世代
Q:「採用活動(特に中途)の主体を人事部から各事業部門に移管するためには何が必要でしょうか?」
→A:「採用権を手にするには責任を背負う覚悟も必要です」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2022年9月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください