ハンブルク港湾に触手を伸ばす中国:メルケル前首相からの融和路線

世界最大の港湾運営会社であり海運会社の1つCosco Schipping(コスコ・シッピング)は2021年9月、ドイツのハンブルク湾のハンバーガー・コンテナ・ターミナル・トレロート(CTT)の35%の株式を取得した。そのことが報道されると、「中国共産党政権の管理下にある国営企業がドイツの有数の港湾のコンテナターミナルを買収すれば、ドイツの安全を損なう危険が出てくる」といった懸念の声が聞かれる。

ハンブルク湾のハンバーガーコンテナターミナルトレロート(CTT)の全景(HHLACTT公式サイトから)

独メディアの調査によると、複数の省庁は中国の買収に赤信号を灯したが、ショルツ首相(SPD)はこの取引を成立させたい意向だ。ちなみに、ショルツ首相は2011年~18年の間ハンブルク市長だった。

独放送局NDRとWDRが20日発表した調査によると、この取引に反対した省庁は、経済、内務省、国防、運輸、財務の各省庁と外務省の6省だ。外務省は「中国からの影響が大きすぎる」と警告した。

それに対し、コスコとの商談の詳細な状況を知っているショルツ首相は、「最小のコンテナターミナルの少数株であり、国益のリスクとなることはない」と懸念を払しょくしてきた。ショルツ首相がハンブルク市長だった時、ハンブルクの港湾会社はコスコとの連携を深めていった。連邦政府がコスコとの商談を拒否しない限り、商談は自動的に10月に発効する。ショルツ首相は11月初めには中国を訪問する計画だ。

独メディアによると、コスコはターミナルで金銭的な利害関係を取得するだけでなく、意思決定への発言権をも有しているという。中国はハンブルク港における最も重要な貿易相手国だ。世界最大のコンテナ船会社の1つを運営するコスコグループは、何十年もの間CTTに船舶を係留してきた。コスコは貨物をハンブルクに集中させたい計画だ。このターミナルは、これまで市の過半数の株式はHHLA (Hamburger Hafen und Logistik AG)が所有してきた。

コスコは近年、ヨーロッパの多くの港に関心を寄せてきた。同社は、ピレウス(ギリシャ)、ゼーブルッヘ(オランダ)、ロッテルダム(オランダ)、アントワープ(ベルギー)、バレンシア(スペイン)などの戦略的および経済的に重要なヨーロッパの港の株式を保有している。

300万TEU(20フィートで換算したコンテナ個数を表す単位)の輸送能力を持つコスコとその子会社はヨーロッパの14の港に既に関与しており、ハンブルクは、ロッテルダムからビルバオ、イタリアのヴァドに至る一連のコスコのコミットメントの最後の投資だ。

ドイツの中国研究機関MERICSは、「コスコ社の拡大は北京の利益に沿ったものであり、国家資金によって資金提供されている。海洋貿易ネットワークの開発は、世界貿易ネットワークである一帯一路構想に関する中国の計画の中心的な柱だ」と指摘している。

ヨーロッパでは、中国がヨーロッパの海上貿易を支配しすぎて、安全保障上のリスクになるのではないかという懸念がある。湾は重要なインフラストラクチャだからだ。NDR/WDRのレポートによると、欧州委員会もハンブルク市と中国企業との取引に反対してきた。

ショルツ連立政権では連立パートナー「緑の党」のハベック経済相(兼副首相)は、「重要なインフラに影響を与える機会を中国に与えるべきではない」と警告し、「私たちは過去の過ちを繰り返してはならない」と中国依存体制に強い警戒を示している。同じ連立与党の自由民主党(FDP)のブッシュマン法相は20日、「ドイツのいかなる重要インフラも中国政府の管理下に置かれるべきではない。それは独立の問題だ」と述べている。一方、野党第一党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)議会グループのシュパーン副会長も、「パンデミックとエネルギー危機から学んだ教訓の1つは、中国からもっと独立しなければならないということだ」と述べ、コスコの参入に反対している、といった具合だ。

それに対して、ハンブルク市のショルツ市長の後継者、ツェンチャー市長(SPD)は、CTTへのコスコの参加を引き続き支持している。曰く「中国の参加により、コンテナターミナルの持続可能な計画が約束される。コスコが共同所有者である場合、ドイツ北部の港がハブ、つまり優先積み替え拠点になる」というのだ。要するに、中国の国営企業の参入の見返りとして、より多くのコンテナが中国からハンブルク港に集まるというわけだ。

ハンブルグで取り扱われるコンテナのほぼ3分の1が中国製または中国市場向けであり、年間約120万個のコンテナが集まる。コスコへの参入が失敗した場合、中国人がロッテルダムなど、他の港に切り替える懸念が出てくるわけだ。

以上、ドイツ通信(DPA)とオーストリア通信の関連記事を参考にした。

ショルツ首相がメルケル前首相のように対中国政策で融和的な路線を歩み出さないことを願うだけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。