こんにちは、音喜多駿(日本維新の会 参議院議員 / 東京都選出)です。
本日も1時間45分に及ぶ与野党協議会でした…毎回、長丁場の真剣勝負。
与党側から出された54項目(追加を入れて55項目)の野党案に対する質問事項について回答・議論することが中心でしたが、岸田総理の記者会見もあり、一歩前進とも言える進展がありました。
岸田首相「今国会を視野に努力」 被害者救済新法を提出へ
https://news.yahoo.co.jp/articles/bd59f6d91bda39dd91b0e170a2cdba669d5f5917
成立ではなくて「提出」、「視野に努力」など岸田総理らしい曖昧な言い回しについては気になるものの、与野党協議会も踏まえて閣法(政府提案の法律)で新法を目指すとのことで、ここまで言った以上は不退転で進むものと受け止めています。
与党側からは一週間後の14日(月)までに、新法の条文とまではいかずとも、少なくとも議論に耐えうる要綱(要点)を出すことに最大限の努力をするとお約束いただきました。
被害者救済や与野党共通の悲願。このコミットメントについては守っていただけるものと認識しています。
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こうしていよいよ、私たちが求めてきた「新法」の内容について、政府与党から具体案が示されて議論を深めていくフェーズになると思いますが、野党案についても様々な指摘や質問をいただいています。
政府与党案を策定するにあたっては、これまでの議論で出てきた与党方針における不十分・不透明な点や、野党案に優位性がある点などを十分に踏まえたものを策定していただきたいと切に願っています。
そこで前回、与党側から出された55項目の質問事項への回答を公開するとともに、「よくある質問」についてのアンサーをもう少し噛み砕いた形で下記に掲載・説明をしておくものです。
55項目の回答については法律論など玄人向けの内容・文章が中心ですので、報道関係者や有権者の皆さまにおかれましては、本Q&Aも参考にしていただけますと幸いです。
※55項目への回答文章などはこちらから。
https://drive.google.com/drive/mobile/folders/1j9BwttAHlL8QvkuYr6rNdibdXzPti4Fi?usp=sharing
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Q1:旧統一教会を狙い撃ちする法律をつくることは正しいのですか?ただ世論に迎合したいだけではないですか?
今回の法案は旧統一教会の事例を契機として作成していることは確かですが、旧統一教会、あるいは宗教法人のみを狙い撃ちしていることは決してありません。本法案で規定する悪質な手法による献金等をさせる者には、宗教法人でなくても、すべての法人・個人に対して適用されることとなります。
Q2:なぜ新法は今国会中の成立が必要と主張しているのですか?拙速な議論で法律を制定するのは避けるべきではないですか?
消費者契約法等の法改正だけでは被害者救済が難しく、新法が必要というのは与野党の共通認識です。
そもそも政府与党が改正を検討している消費者契約法は、「契約」を対象にその取消し等について定めているもので、献金等については、喜捨などという「事実行為」である旨の反論が宗教法人等からなされ、救済が滞ることが懸念されます。
また、平成30年に消費者契約法が改正され、霊感商法による消費者契約を取消対象に加えましたが(消費者契約法4条3号6号)、ほとんど使われた実績がありません。法改正後、旧統一教会がお金を信者から集める手段として、それまでの「物品販売」の形態から「寄附」の形態に変わったからです。
旧統一教会による献金集めの手法は、いわゆるマインドコントロールの手法を用いたものであり、その特徴は、被害者に対する働きかけが必ずしも「契約」等の意思表示に向けられたものではない点にあります。よって民法上の詐欺や消費者契約法に基づく取消しの適用は困難であり、その延長線にある法改正だけでは大きく状況を変えることはできません。
被害は現在進行系でも継続しており、一刻も早い対応・新法制定は被害を受けた当事者や被害者弁護団が切実に望んでいるものと認識しています。
Q3:「マインドコントロールの状態」を定義は難しいのではないですか?どう判断するのですか?
いわゆるマインドコントロールの「状態」を定義することが難しいのはその通りです。そこで維新・立憲法案は、マインドコントロールという文言は法文中に使わず、代わりに問題となるような状況を類型化し、「特定財産損害誘導行為」という規制対象となる「行為」を定義することにしたものです。類似の法律は諸外国にも存在します。
「特定財産損害誘導行為」としては、「自由な意思決定を著しく困難とするような状況を惹起させる行為」という【手段の悪質性】と、「財産に著しい損害を生じさせる利益供与の誘導行為」という【結果の重大性】に着目した行為を定義しています。
【手段の悪質性】の類型としては㋐暴行脅迫類型、㋑霊感類型、㋒心理学の濫用類型を例示し【「結果の重大性】については、「著しい損害」の判断基準の目安の一つとして「可処分所得の4分の1」等を示しています。これらの例示により、司法が判断することは十分に可能であると考えています。
Q4:「心理学に関する知識及び技術」やそれを「みだりに用いる」とはどういうことを想定しているのですか?
旧統一教会の手法で例えれば、勧誘の主体を隠すだけではなく、最初は「自己啓発セミナー」「運勢鑑定」など本来とは異なる目的できっかけを作り、相手方の警戒心を解いた上で、それに乗じて段階を経て徐々に教義を教え込み、最終的には絶対の真理と信じ込ませるといった「勧誘のための手法」が確立しています。その一連の過程はまさに「心理学に関する知識及び技術をみだりに用い…その人の心身に重大な影響を及ぼす行為」に該当するものと考えています。
「心理学に関する知識・技術を用いている」という認識がなくとも、先に述べたような勧誘のための手法を行うことを認識してさえいれば、当該要件に該当します。
Q5:「寄附の上限規制」を設けると、宗教法人側に個人の年収を把握する理由を与えてしまい、デメリットが大きいのではないですか?
まず、維新・立憲法案では、厳密な意味での「寄附金の上限規制」は設定していません。「著しい損害」の判断基準の目安の一つとして「可処分所得の4分の1」というのを示しており、それ以外にも資産(含む借金)や収入の状況、生活の状況(扶養家族の人数など)その他の事情を考慮すべき要素として挙げています。
実際に被害者や被害者弁護団が裁判を起こす際、すべての判断が裁判所に委ねられる現行法制では、訴訟を提起すること自体のハードルが極めて高いとの指摘があります。
そこで本法案では、「著しい損害」のひとつの目安を示すことで、実際に訴訟がなされる際、その要件に該当するかの判断が容易になることによって、恣意性を排除した妥当な結論(法適用)を導き出すことが可能になると考えています。
なお、宗教団体が個人の年収把握をすることへの懸念が指摘されますが、元々、被害者救済は被害者側が請求して初めて実施されるものであり、献金時点で収入を明らかにする必要はなく、被害救済を受ける際に収入を明らかにすれば足ります。寧ろ献金に当たって個人の年収を把握しようとする宗教団体等は、一般的ではありません。
Q6:刑事罰はなぜ必要なのですか?罪刑法定主義の観点から問題はありませんか?
本法案では、取消権や特別補助など、被害が生じた後に被害を回復する「事後的な救済」に資する法案となっていますが、その被害は性質上、被害者本人が被害を受けていることを認識することが困難であり、長期間にわたって継続して深刻な被害が生じるという傾向があります。
こうした事情に鑑みれば、事後的な救済制度に加えて、行政が早期から介入して、積極的に被害を未然に防ぐ措置を講じるとともに、悪質な献金被害を繰り返す者に対して明確なペナルティを設けて、再発を防止することが極めて重要です。
そこで、本法案では、何人も特定財産損害誘導行為をすることを禁止し、勧告→是正命令→罰則という行政的規制・刑事罰を課すこととしています。
まず悪質な寄附等の注視を求める勧告を行い、それに従わない場合は是正命令を発出。その命令にも従わない場合には刑事罰という三段階の慎重なステップを踏み、命じられた具体的な「是正措置」を講じないことを構成要件としているので、罪刑法定主義の観点からも極めて明確なものとなっています。
Q7:「特別補助制度」はなぜ必要なのですか。与党案の損害賠償ではダメなのですか?
いわゆるマインドコントロール下にある人は、生活に支障が出るほどの高額献金を継続するなど、合理的な判断能力を発揮できない状態に陥っています。本法案では、特定財産損害誘導行為によって行われた意思表示について取消権を設けることとしていますが、マインドコントロールが解けていない状態では、本人による取消権の行使が期待できません。
そこで、後見的な見地から、本人の保護を図るため、家族等が本人に代わって取消し等を行うことができるようにするということが必要であると考えています。
なお、現在仄聞している与党案の損害賠償スキームでは、第三者が損害請求可能な献金は、法施行後に発生した献金のみに適用されます。加えて、損害賠償はその都度で行う必要があり、その後に本人が損害賠償請求後もなお繰り返し献金を行うような行為を未然に防ぐことは困難です。
維新・立憲法案の「特別補助制度」が発足すれば、特別補助人が本人を代理して、民法709条によって本人ができたはずの請求をすることができるようになり、過去のマインドコントロール下での献金を取り戻すことが可能です。特別補助が認められた後は、本人が献金し続けようとする行為も防ぐこともでき、現在まさに被害者家族等に起きている困難の救済にも資するものとなっています。
Q8:「特別補助制度」は、憲法上の財産権や自己決定権を毀損し、私的自治の原則や民法上の意思能力概念を混乱させることになりませんか?
いわゆるマインドコントロール下にある人は、特定財産損害誘導行為により生活に支障が出るほどの高額献金を継続するなど、合理的な判断能力を発揮できない状態に陥っています。こうした現実(立法事実)に鑑みれば、行為能力を適切に制限し、後見的な観点からこれを保護することは喫緊の課題です。
一方、本人の財産処分の自由に鑑みれば、行為能力の制限は、可能な限り限定的であるべきことが要請されることは当然です。そこで、本法案では、司法を通じた極めて厳格な適正手続の下で、必要最小限度の範囲で本人の行為能力を制限するものとなっています。しかもその目的は、あくまでも当の「本人保護」のためのものです。
例えば相手方を「特定財産損害誘導行為を行う者等に限定する」としているので、相手が違う人であれば、いかなる行為も制限されません。「日常の買い物」から「自動車の購入」まで、本人の自己決定権を不当に制約するものにはなりません。
またこの法案は、「私的自治の原則」に委ねた結果生じた問題を解決するために、行為能力にごく部分的な制限を設けるものです。制度設計に当たっては、悪質な高額献金に関する行為のみが制限されることとなるよう、何重にも縛りをかけているため、民法の成年後見制度と同様、私的自治の原則を補完するものとなっています。
なお本法案には「意思能力」の概念に触れた箇所はありませんので、民法上の意思能力概念を混乱に陥れることもありません。
Q9:本人の意思と反する行為を「特別補助人」が行うことは可能なのですか?その場合、本人の意思は尊重されないのですか?
「特別補助制度」は、いわゆるマインドコントロールという特殊な状況を念頭に置いていますので、民法の「補助」と異なって、審判や代理権付与の審判に当たっては本人の同意を不要としています。したがって、困難状況下にある本人の意思と異なる行為をすることは可能です。
しかしながら、「本人の意思を尊重する」ことは当然であり、手続保障の観点からも、本人の陳述を聴取する機会を設けています。
編集部より:この記事は、参議院議員、音喜多駿氏(東京選挙区、日本維新の会)のブログ2022年11月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。