中野区神田川の上空を活用したドローン物流・点検の実現に向けた実証実験
都市内におけるドローン物流を目的に中央大学手計研究室・国際航業株式会社・中野区・東京都と共同でTOKYOドローンウェイ研究会を設立しました。
まずは、こけら落としの実証実験を2022年10月24日に中野区内の神田川上空で実施し、その説明会を実証実験現場近くの都立富士高校にて開催しましたので、その報告をさせていただきます。
1.背景
私はこれまでに中野サンプラザ・中野区役所を対象にドローンを活用した建物点検技術の開発に向けた実証実験のプロジェクトを興してきました。
その実証実験については「ドローン、大都市圏突入!!」中野区において準備中をご参照ください。
上記エントリーで取り上げておりますが、令和3年9月24日、河野太郎行政改革担当大臣(当時)の肝いりでドローン飛行に関する規制緩和が進められ、国土交通省は航空法施行規則のドローン等の飛行規制に関して一部改正、緩和を実施しました。
無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン(例として図1・2)として、規制は緩和されましたが、まだまだドローンが自由に空を飛び交うようなルールではありません。
またドローンの飛行ルールを守ったとしても、国民、地域住民にその理解が進んでおらず、場所によっては通報をされる可能性があります。
ドローン落下原因として、強風、電波障害、故障などがあり、特に都心部では携帯電波、Wi-Fi、地デジなど無数の電波が大量に放出され、またビル風が強く、この障害を取り除くことは困難です。
以上のことからドローン飛行は通報されやすい、都市部においては落下しやすいことを前提に研究開発をする必要があると考えます。
2.研究目的
山間部等の過疎地域におけるドローン物流、緊急事態時のドローンによる医薬品配送など、ドローンによる物流の実証実験が実用化され、その利便性が享受されつつありますが、都心部においては様々なボトルネックから遅々として進んでいない状況です。
都市部におけるドローン物流の実現には、スタートアップでは2つが重要ポイントであると考えております。
(1)都市部においては、極めて安全性が高いドローン専用の航路を創り上げる必要があります。
DID(人口集中地区)以外では実用化に向けた多くの事例があります。しかし都心部ではドローン落下のリスクが他よりも高く、都心部で誰にも迷惑をかけずに飛行できる場所は河川上空のみです。
(2)技術開発をするからには最終的には汎用性があり、商用的な技術にする必要があります。
商用化するにはひとつのドローンに対して、パイロット一人を当てるにはコストが高すぎるため、自動運転技術の開発が不可欠です。
そのためには3次元の空間情報基盤(空の道)、複数ドローンが飛行しても衝突などしない安全運航システムなどの整備も大切です。
レベル4(有人地帯での補助者無し目視外飛行)の実現を目前に控えるなか、都市部においても比較的障害物の少ない河川上空は、ドローンの安全な利活用により物流・点検分野の省人化・効率化の技術開発が期待できるフィールドとなります。
写真1は実証実験サイトです。
赤で囲われた部分が現状のルール、協議の上で飛行可能とした空間でコンクリート三面張りの中です。
黄色で示すのは未来のドローン物流の航路のイメージです。
基本的には河道内(赤枠内)を進むでしょうがラストワンマイルではドローンは河道から浮上し、路地に入ることなどが想定され、この運用を実現するためにも3次元の空間情報基盤が不可欠です。
これら問題を解決するための基礎研究を実施し、都市部のドローン物流のため、まずはマイルストーンを構築する必要があり、本実験はその礎になるために尽力いたします。
3.研究体制
都市部におけるドローン物流技術の開発をするためには、ひとつの組織だけでは不可能です。そこで私は何か科学技術を社会実装するためには図3のような組織体制が必要となるのではと考えています。
まず、「ああだったらいいな、こうだったらいいな」という社会の課題解決のニーズをもつ住民・行政・地域はそれを解決する手段を持ち合わせていないとします。また世の中にはそれを解決する各分野の専門家の技術シーズがあるかもしれません。
ニーズとシーズがあるにも関わらず、ニーズ側の主張はローカルに特化、感情的になりがち、一方、シーズ側は専門的過ぎて、関係者しか理解できない話をするなどで両者は嚙み合いません。ここでイノベーションマネージャーとでも名付けますが、調整役が必要だと考えます。
技術をある課題解決に向けて社会実装するためにその両者の言い分を理解し、翻訳できる人です。しかしこの3者がいたとしても社会実装はできません。まずは民間企業ですが、技術的・資金的なサポートを期待します。
国策であったスペースシャトルをやめ、宇宙開発を民営化する時代に、技術は最終的には商売ベースにできなければ事業は成り立たないと考えるべきです。
次に行政ですが、何をするにしても法律が壁になることは多く、プロジェクトは行政と連携を深め、状況によっては規制緩和の必要性を行政に訴えることも戦略の一つです。
大学・研究機関には有識者の技術的助言を求めます。日本の国民性としては、全体が見渡せる有識者の助言により納得が得られやすくなります。
最後に地元・ボランティアですが、地域の方々に実証実験に参画・議論していただき、理解をしてもらうことが社会実装においては一番重要であると考えます。
図4は図3に本実験のメンバーを当てはめたものです。
ニーズとしては中野区・東京都の行政は河川維持管理技術の向上、住民・事業者はドローン物流という新たなメソッドを欲しております。
シーズとしてはドローンを活用した技術です。
イノベーションマネージャーはTOKYOドローンウェイ研究会が担い、各組織の協力をマネジメントとしていきます。
また国土交通省は「河川上空を活用したドローン物流の更なる活性化に向けた実証実験」というプロジェクトを立ち上げ、TOKYOドローンウェイ研究会はそれに参画しております。
この実証実験は「河川上空におけるドローン物流の更なる活性化を図るため、河川上空を飛行ルートとして活用する際のルールづくりの必要性や支援策等の検討に向けて実証実験を行います。」としており、全国18箇所、参加主体22団体が参画しており、これら成果は国土交通省においてマニュアル作成・支援策等へ反映するとのことです。
4.実験サイト
中野区の神田川(図5)を実験サイトとしました。現場は前出の写真1となります。
言い訳がましくなりますので正直にいえば、私が中野区議会議員であることが主たる選定理由ではありますが、神田川でも中野区内とする優位性について説明します。
まずは冒頭で説明しました中野サンプラザ・中野区役所におけるドローンの実証実験の実績により、行政サイドはドローンの社会実装に関連する本実験に対しての理解が他区よりも得られやすい状況でした。
物理的な観点からいえば、上流の杉並区は自然豊かな河川沿いで近くに建物、特に商店がほとんどないため、ドローン物流実験には不適といえます。
下流では写真2のように神田川親水テラス(新宿区高田馬場)などの親水空間のにぎわいがあり、さらに下流では船が舟航しているためにドローンを飛行させるには人がいるためにリスクが高まります。
何も面白味がないコンクリート三面張りの河川空間は住民からの批判などもありましたが、ことドローンの実験においてはこれほど適した場所はないといえます。
5.実証実験
ドローンの活用促進に積極的な中野区などの協力を受け、同区内を流れる神田川の一部区間(以下、実施区間)をフィールドに、都市部の河川上空におけるドローンの物流や河川施設の点検・監視などマルチタスクユースに向けた基礎調査を目的とする実証実験を行いました。
テクノロジーの社会実装に関わる地域交流の場として、本実証実験には近隣の東京都立富士高校・附属中学校の生徒・関係者約40名も参加しました(写真4)。
【実証実験の概要】
日時 | 2022年10月24日(月)16:00~16:45 |
実施区間 | 荒川水系神田川のうち、中野区内を流れる下記区間(合計約430m)
富士見橋~和田見橋(東京都中野区弥生町5丁目23~24番先) 和田見橋~善福寺川との合流点(東京都中野区弥生町5丁目7番先) |
実施者 | 中央大学手計研究室、国際航業株式会社、東京都中野区、東京都 |
参加者 | 東京都立富士高校の関係者 |
目的 | ① 都市部の河川上空におけるドローンの物流・点検等の実現および活性化に向けた基礎調査の実施
② テクノロジーの社会実装に向けた地域交流の機会の提供 |
機材(ドローン等) | 米Skydio合同会社製のドローン「Skydio2」、当社製の3次元点群モデルビューアツール |
6.まとめ
本実証実験では都市部におけるドローン物流を実現するために必要な空間情報基盤を作成するためのトライアルを行い、成功裏に終わりました。
さらにエリアを拡大することにより、ドローンの航路、空の道となりうる河川空間の3次元の情報を明確に捉えられる可能性を示しました。
「ドローン物流を実現するためにはどのような環境やデータの整備が必要なのか」といった課題のほかに、公共工事におけるBIM/CIM原則適用の流れを背景に「河川施設点検等のメンテナンスにどう活用できるか」などの課題も合わせて、今後検討を進めてまいります。
参照:国際航業HP