内閣府 AIホスピタルプロジェクト、あと4ヶ月:心のケアができる医療を

中村 祐輔

内閣府の「AIホスピタル」プロジェクトは、あと4ヶ月で終了する。いくつかの目標をもって取り組んできたが、最大の目標は「心温まる医療」を取り戻すことだ。今週の月曜日の全体を取りまとめる会議で、5つの医療機関の代表から発表があった。プロジェクト発足時と比較すれば多くの役に立つ成果が生まれつつあると参加者の皆さんが感じたはずだ。

厚生労働省 SakuraIkkyo/iStock

特に、国立成育医療研究センターの梅澤所長からの発表には、コロナ感染症流行下で苦労されている姿が目に浮かんだ。病気の子供さんたちが、両親を含む家族に面会できない面会制限の状況を思い浮かべると切ないものがある。成人でも、病気で一人でいると不安になるが、子供さんたちが両親とスキンシップもままならないのは大きなストレスに違いない。

病院にほぼ等身大のスクリーンを設置して、家族と画面越しに話しできるようにしたことは、子供さんたちだけでなく、家族のメンタルヘルスにつながっているようだ。全国の子供病院に同じようなシステムを導入すれば、どれだけ子供や家族の心が救われるのかと思う。政治が悪いのか、官僚が悪いのか知らないが、無駄に税金を垂れ流しする前に、医療現場を思い浮かべて欲しいものだ。

そして、子供さんを癒すために、AIロボットも導入されている。進行がんの子供さんがAIロボットと戯れて癒されていると説明された時に、梅澤先生の言葉が少し詰まった(ように思った)。残された時間が限られている患者さんが、家族と過ごすことができずにロボットと過ごしている姿が思い浮かんだ私も胸にこみ上げるものがあった(こんな時、会議の座長として毅然とした素振りをしなければならないのは少々辛いものがある)。

さらに、医療的ケア児の健康状態の把握や家族の肉体的・精神的ケアも大切だ。世田谷区と連携して取り組みを行っているそうだが、このような行政的なサポートが重要だ。この5年間弱、この国の医療現場での課題とそれらの解決に取り組む姿を聞かせていただき非常に勉強になった。皆さんの姿に頭が下がる思いでいっぱいだ。医療現場で抱えている課題にひとつひとつ取り組むのではなく、病院全体のAI化・デジタル化に取る組むことが、全体の意識の高まりにつながることも学ばせてもらった。

と同時に、残念ながら、この国には医療の将来に対する大きなビジョンがないことを再認識した。役所は自分たちの面子や利権に固執し、目の前の予算を取ることに汲々としている。上記の成育医療研究センターの取り組みが全国に普及すれば、どれだけの子供や家族が利益を受けるのか想像に難くないが、そこに思いが及ばない永田町や霞が関に絶望を覚えてしまう。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。