プラチナバンドで地上波テレビのイノベーションが起こる

池田 信夫

ワールドカップの中継では、AbemaTVの同時接続が最大1500万人に達したという。これは視聴率でいうと15%で、フジテレビの34.6%の半分近い。放送権料は350億円と推定されるが、そのうち200億円をアベマが負担したらしい。もう地上波とネット放送の力関係が逆転したのだ。

プラチナバンドを地上波テレビに

これは先月ホリエモンと話した対談だが、私があいているプラチナバンド(470~710MHz)を携帯電話に割り当てる話をしたのに対して、ホリエモンは「テレビに割り当ててはどうか」という。これは電波業界の常識ではありえない。これから地上波テレビのネットワークを全国につくることは不可能で、放送なら衛星のほうがはるかに効率がいいからだ。

しかし衛星はマイナーで、ほとんどのチャンネルが赤字である。テレビのリモコンでは地上波局も衛星も同格で、たとえば「265」と押せば265チャンネルの「BSよしもと」が無料で見られるが、地上波のほうが桁違いに高い視聴率を稼いでいる。

その理由は単なる「慣れ」である。視聴者は3桁の衛星チャンネルの中から番組を選ぶより、いつも見ているリモコンの1~12チャンネルの中から見るからだ。これは日本の特異な視聴習慣で、地上波局がながく独占を守ってきたため、約70年も地上波局の倒産も買収もなく、全国ネットが守られているのだ。

東京でも32チャンネルあいている

この現状を変えるのは簡単である。地上波テレビ局は全国で(物理チャンネルで)13~52の40チャンネルを割り当てられているが、たとえば東京スカイツリーは、次の表のように16チャンネルと21~27チャンネルの合計8チャンネルしか使っていないので、13~15チャンネルと28~52チャンネルの合計32チャンネルはあいている

マスプロアンテナ資料

これをSFNで区画整理して、すべての中継局をスカイツリーと同じチャンネルにすれば32チャンネル使えるが、今のままでも、たとえば50チャンネルは新島しか使っていないので、アベマに割り当て、スカイツリーから放送すればいい。それをリモコンの3チャンネルに割り当てれば、今のテレビで受信できる。10・11チャンネルもあいている。

このようにテレビのあいた帯域に新しいテレビ局を入れれば、関東1都6県の2500万人に放送できる。同じように各県で割り当てれば全国放送もできるが、圧倒的に収益率が高いのは首都圏なので、電波を使うのは関東だけで十分だ。他の地方は、今回のワールドカップのようにネット放送でいい。

H.265で200チャンネル放送できる

サイバーエージェント(アベマの親会社)にとって、地上波をもつメリットは大きい。ワールドカップのような大イベントなら、AWSやAkamaiのサーバを借りても採算がとれるが、1年中そうは行かない。一方的に流すマルチキャストには、電波が向いている。

受像機は今のテレビで映るが、4KやNetflixなどの使っているH.265という圧縮方式を使えば、1MHzでHDTV1チャンネルとれるので、あいている200MHzで200チャンネルとれる。H.265に対応したテレビも増えているので、高価な衛星を使っている業者も、丸ごと地上波に引っ越せる。

チャンネルの割り当ては、オークションでやればいい。用途を問わない帯域免許なら、難航している楽天の帯域もここで確保できる。価格は1MHzが100億円というのが相場である。たった100億円で、1年中スポーツ中継できるチャンネルが買えるなら、サイバーエージェントにとっても楽天にとっても安いものだろう。

最大の問題は、地上波局(特に民放連)が新規参入を許さないことだ。これは岸田政権ではどうにもならないので、菅義偉氏が再登板しないと無理だろう。逆にいうと、この改革は技術的には100%可能で、必要なのは政治決断だけである。