アルプスの小国オーストリアはカトリック教国だ。第2次世界大戦終了後、国民の80%以上はカトリック信者だったが、戦後70年以上が過ぎたが、カトリック信者数はあと数年も経過すれば、50%を割ると予想されている。もちろん、それなりの理由はある。
オーストリアのローマ・カトリック教会が11日、公表した2022年の教会統計によると、昨年教会から脱会した信者数は9万0808人を記録した。ちなみに、2020年の脱会者数は5万8727人、21年は7万2222人だった。2021年は全信者数は482万7683人だったが、昨年は473万3174人となり、前年比で1.96%減だ。
参考までに、首都ウィーンでは昨年、2万3986人が教会から出て行った。21年は1万9767人だった。ウィーン大司教区の信者数は108万8275人だ(21年度は111万3043人)。
教会脱会者急増の背景について、大きく見て3点が挙げられている。①教会内の問題、②社会的、経済的問題、③コロナ・パンデミックの影響だ。①教会内の問題では、聖職者の未成年者への性的虐待問題が世界各地で発覚し、教会が信者の信頼を失ってしまった。2010年代から指摘されている点だ。
問題は②と③だ。ウクライナ戦争の影響もあって、物価の高騰、エネルギー価格の急騰などで国民の生活が一段と厳しくなってきた、教会側は経済事情が厳しい信者には教会への献金などに対して猶予などオファーしてきた。そして③では、2020年以降の新型コロナウイルスの感染対策として、コロナ規制が施行され、教会の礼拝など信者たちの集まりにも人数制限などが行われてきた。今年に入り、コロナ規制は特定の場所のFFP2マスクの着用以外は解除された。神学者のレジーナ・ポラック氏はカトリック通信「カトプレス」とのインタビューの中で、「コロナウイルスのパンデミックは教会などの組織、機関との絆を薄める傾向をさらに強めた」と答えている。
以上、①、②、③の理由が合わさって、2022年の教会脱会者が急増したというわけだ。②と③は特別な事情であり、①は過去10年以上続いてきた理由だ。オーストリアのカトリック教会は1995年、教会最高指導者グロア枢機卿が教え子に性的虐待を犯したことが発覚して以来、信者数は毎年、減少してきた。神学セミナーで児童ポルノが見つかったりし、国民の教会への信頼感は地に落ちた。その点、聖職者の性犯罪で大きく揺れているドイツ教会やフランス教会と大きくは変わらない(「独カトリック教会、脱会者が急増」(2022年6月29日参考)。
著名な神学者のポール・ズレーナー氏は経済的理由と共に、教会がコロナ・ワクチン接種を最初から強く呼びかけたこともあると指摘している。また、世代の相違も教会脱会者の増加に反映していると指摘し、「年配の世代はまだ『運命』を信じていた。彼らはカトリック教徒であり、キリスト教が文化に組み込まれている。しかし、今日では宗教に関しても、より多くの選択肢がある。教会からの脱会は受け継がれてきたキリスト教の形式からの別離を意味する。重要な問題は、教会が人々を取り戻せるかどうかだが、現時点では、教会と人々の生活との間にギャップがある」という。
オーストリアを含め欧州社会では世俗化が加速化し、教会離れをもたらしているが、中東・北アフリカからの移民の増加もあって、イスラム教徒と正教徒の数は年々増えている。その意味では、宗教からの決別というよりも、欧州社会、文化をリードしてきた主流宗教のローマ・カトリック教会とプロテスタント教会がその影響力を失ってきていることだ。もう少し厳密にいえば、イスラム教も正教会もアブラハムから派生した宗派だ。アブラハムのファミリーで中心的位置にあった新旧教会からイスラム教、正教会へとその軸が移動してきている、というべきだろう(「欧州社会は『アブラハム文化』だ!!」2021年6月20日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。