超過死亡の増加にワクチン接種の関与はあるか?

小島 勢二

JJ Gouin/iStock

コロナの流行が始まって3年が経過したが、2020年には多くの国で超過死亡が見られたのに、わが国で観測された死亡数は予想される死亡数より少なく過少死亡を生じた。ところが2021年には、一転して、5万人に達する超過死亡が観測され、昨年は10万人を超えたと予想されている。さらに、先月の死亡数が速報されている仙台市や北九州市の超過死亡は、大変な事態になっている。

超過死亡が増加した要因について、日本の超過死亡を集計している国立感染症研究所(感染研)の鈴木基感染症疫学センター長のコメントは、「超過死亡の要因は、社会的要因を含めて広い意味で新型コロナの流行拡大の影響といえる」と漠然としたものである。

これまでアゴラの誌上で、超過死亡の要因に関しての論争が続いているが、主たる対立点は、超過死亡の要因としてのワクチン接種の関与である。超過死亡の要因は、一つに絞る必要はなく、コロナによる感染死を要因の一つに加えることに誰も異論を唱えないであろう。

図1は、昨年の1月から6月末までのコロナ感染による死亡と超過死亡の累積数を示す。超過死亡は41,919人で、コロナによる死亡の12,195人を大きく上回る。この超過死亡からコロナ死を引いた数が問題となる。PCR検査が普及しているわが国においては,この超過死亡からコロナ死を引いた残りに、コロナ死以外の原因による死亡が含まれていると考えるのが自然である。

図1 2022年上半期に日本で観察されたコロナによる死亡と超過死亡数の累積
筆者作成

ワクチン接種と超過死亡に関する公式見解は、筆者が知る限り、昨年2月18日に開催された第76回厚生科学審議会における鈴木基センター長の発言のみである。

図2を用いて、「原因は結果に時間的に先行することが知られており、この原則をBradford Hillの因果判定基準における時間的関係性と呼んでいる。大阪、兵庫および全国においては、超過死亡は新型コロナワクチン接種の増加に先立って発生しており、超過死亡の発生と新型コロナワクチン接種との間の時系列は説明がつかない」と説明している。

図2 65歳以上―2021年の全死亡超過死亡の発生と新型コロナワクチン接種数の関係

超過死亡におけるワクチンの関与を否定する根拠として、未だに、政府関係者や専門家の一部が鈴木センター長の発言を引用しているが、1年経った現在、この発言の是非を問うことが必要と思われる。

すでに鈴村氏が指摘していることであるが、ワクチン接種後の死亡リスクは、接種対象によって大きく異なる。高齢者接種と一般接種とで異なるばかりでなく、高齢者でも、一般の高齢者、一般の高齢者施設入所者、特別養護老人ホーム入所者の順に死亡リスクが高まる。

わが国では、一昨年4月12日からまず特別養護老人ホーム入所者を対象に高齢者接種が開始された。図3に示すように、翌週から超過死亡の発生が始まり、6月13日の週まで連続して超過死亡が発生している。超過死亡が4月18日から始まっているのに、1回目接種のピークが6月であることを否定の根拠としているが、1回目接種の大多数が、少数の高齢者接種に続いて行われた一般接種であることを考慮すれば、超過死亡が始まった時期と接種のピークがずれることは何ら不思議ではない。

図3 1回目高齢者ワクチン接種の開始と翌週からの超過死亡の発生

図4に示すように、65歳以上の高齢者接種に対する3回目接種の開始は一昨年の12月1日からで、ピークは昨年2月18日の81万回だった。4回目の高齢者接種の開始日は5月25日でピークは8月5日の57万回であった。ワクチン接種の開始に続いて、昨年の2月6日の週、7月31日の週から超過死亡が発生しており、「超過死亡の発生と新型コロナワクチン接種との間の時系列は説明がつかない」という鈴木センター長の指摘は的を射ていない。

図4 高齢者に対するワクチン接種の開始と超過死亡の発生

日本でワクチン接種が始まった直前の2021年1月20日に、朝日新聞デジタルは、ノルウェーで、ワクチン接種を受けた23人の高齢者が、接種から6日以内に死亡したことを報道している。多くの高齢者は介護施設に入所中であった。

今回、改めて図2を見て奇妙なことに気がついた。中段は大阪、兵庫、東京、全国の超過死亡を図示したものであるが、青線で示す超過死亡ラインの位置が全国において不可解な位置にある。

図5に示すように、東京の超過死亡は、ダッシュボードが示す超過死亡と、超過死亡ラインより上の部分で示される超過死亡とが一致している。ところが、全国では、超過死亡ラインより上の部分は、わずかで、ダッシュボードで示される超過死亡の大部分はライン以下である。鈴木センター長の示す図では、全国レベルでは超過死亡の発生は、わずかであると印象付けられてしまう。

図5 全国と東京における超過死亡ラインの位置のずれ

さらに、超過死亡とワクチン接種との関わりを示唆するデータ、第3波、第4波、第5波におけるコロナによる死亡数と超過死亡とを示す。

医療関係者を対象に、ワクチン接種が始まったのは、一昨年の2月17日からであるが、27日までの接種回数は、28,536回とごく僅かである。同じ2ヶ月間の比較であるが、ワクチンの接種を開始する以前の第3波におけるコロナ死者数は5,720人で、ワクチン接種が開始された以降の第4波、第5波におけるコロナ死者数よりも多い。

ところが第3波の超過死亡は、4,813人であるのに対して、第4波、第5波の超過死亡は、コロナ死者数を大幅に超えており、その差は1万人以上である。第3波と第4波、第5波の大きな違いは、ワクチン接種の開始前か開始後かであるので、超過死亡の要因として、ワクチン接種後の死亡の増加を考えるのは自然である。

表1 各流行期におけるコロナによる死亡数と超過死亡

現在では、1年前の鈴木基センター長の主張に賛同する医師や研究者は少ないであろう。改めて、超過死亡におけるワクチン接種の関与について、見解を述べるべきではないかと思う。