今回の伊勢志摩サミットで議長の安倍晋三首相は機動的な財政戦略や構造改革を提案し、リーマン・ショックを引き合いに出して世界経済の危機(クライシス)に懸念を示したが、危機の度合いの表現をめぐって疑問も出たことから調整もあったようである。
今年に入っての金融市場のリスクオフの動きなどから現在がリーマン・ショック前のような危機的状況に陥っているとの判断はかなり無理がある。中国を中心とした新興国の景気下振れリスクはたしかに存在する。しかし、これはリーマン・ショックやギリシャ・ショックのように金融市場を大きく揺るがすようなクライシスに相当するとは思えない。しかも世界的なクライシスはテールリスクとも呼ばれるように予測不可能なものであり、それを事前に予測できるものにクライシスなどはない。さらに言えば、米国はすでに金融政策の正常化を進めているぐらいである。
何故、安倍首相はリーマン・ショックという表現を盛り込もうとしたのか。これは自ら消費増税の先送りの条件に「リーマン・ショック」という表現を組み入れてしまったからに他ならない。世界経済の認識については、多くの首脳から新興国の現状に厳しい認識が示されることは予想されており、それに乗じてリーマン・ショックという表現を盛り込んで、G7という虎の威を借りて消費増税を先送りさせることが目的であったのではなかろうか。これは以前にノーベル賞級の経済学者を呼んで消費増税に対する意見を聞く場を設けたことも同様の目的であったと思われる。
サミットなどの主要国首脳会議は政治ショーの色彩が強く、開催国の首脳に花をもたせることも定例化しているそうである。安倍首相もこのあたりを計算に入れて、消費増税先送りへの道筋を付けようとしたのではなかろうか。それでも参加国は素直にうんとは言えなかったようである。
本来危惧すべき問題は、あるかないかわからないリスクなどよりも、むしろ日本が抱える巨額の債務問題のほうではなかったのか。そうであれば消費増税先送りなどもってのほかという結論となってしまう。
消費増税の先送りの可能性はより強まった。果たしてこれは手放しで喜べることになろうか。実は世界経済の危機(クライシス)になりそうなもの、潜在的なリスクが大きく膨らんでいるのは日本にあるように思われる。
4月のコアCPIは前年比マイナス0.3%となった。日銀は物価を上げるためと称して年間発行額に相当する国債を買い入れているが、それが物価に直接反映されることはないことをむしろ証明してしまった。しかし、いったん踏み込んだ以上、日銀はどうやら後戻りもできそうにない。マイナス金利まで付けて、異常な金利体制を構築してしまった。つまり異常なほど日本国債の価格は上昇していることになり、これはバブル以外の何ものでもなかろう。このバブル崩壊のリスクこそ本来は意識すべきものであるはずである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。