障がい者/LGBTQ+の役、誰が演じるべき?:英米映画界の論争

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NHK BSプレミアムで5月14日から始まったドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』にダウン症の俳優がメインキャストの一人に起用された(NHK NEWSWEB、2023年5月17日)。

ダウン症の俳優をメインキャストに抜てき あるドラマの挑戦 | NHKニュース
【NHK】ドラマや映画では、時折障害のある役柄の人が出てきます。 車いすを使う人や、耳が聞こえない人、目が見えない人、知的障害が

近年は、障がい者役を同様の障がいのある俳優が演じる傾向にある。家族の中でただ一人耳が聞こえ、歌の才能を見出されたコーダの夢と葛藤を描いたアメリカ映画『コーダ あいのうた』で、コーダの父親役を演じた聴覚障がいのトロイ・コッツアーが昨年のアカデミー賞助演男優賞を受賞したのは記憶に新しい。

さらに英米では、LGBTQ+の役はその当事者が演じるべきだという流れも生じており、当事者ではない俳優がそうした役を引き受けない場合もある。たとえば、2019年、トランスジェンダーの役にキャスティングされていたスカーレット・ヨハンソンは、当事者俳優からの非難を受け、降板した(The New York Times, July 13, 2018)。

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また、2020年には、ハル・ベリーが同じくトランスジェンダー役を引き受けたものの、配慮が足りなかったと謝罪のうえ辞退した(GLAMOUR, July 7, 2020)。

Halle Berry Says She Will No Longer Consider Playing a Trans Man in Her Next Film, Issues Apology
“The transgender community should undeniably have the opportunity to tell their own stories.”

英米は障がい者/ LGBTQ+の俳優の映画やドラマへの進出が進んでいるようにみえるが、当事者や支援者の団体はかれらの起用は不十分、障がい者やLGBTQ+の役が非当事者俳優に奪われていると批判している(Openly, 10 September 2020)。

'They can love': UK film focuses on untold story of LGBT+ disabled teens
By Hugo Greenhalgh LONDON, Sept 10 (Thomson Reuters Foundation) - After using a time-travelling ...

障がい者が登場する映画/ドラマ自体が少ないことも障がい者俳優の出番が少ない理由の一つである。たとえば、2019年にアメリカの主要スタジオが公開した映画118本のうち19%にLGBTQ+の人物が登場したのに対し、障がい者はたった1本であった(Openly)。

もっとも、これは4年前のデータであり、状況は幾分改善されつつある(The God is in the TV, March 17, 2022)。先に挙げた『コーダ』では、耳の聞こえない両親と兄を当事者の俳優が演じた。それでも、ニールセンの調べによると、2021年に上映された映画に登場した障がい者役の95%を健常者俳優が演じていた(The God is in the TV)。

https://www.godisinthetvzine.co.uk/2022/03/17/the-increasing-visability-of-the-disability-on-screen-congratulations-troy-kotsur/#:~:text=A%20recent%20Nielsen%20study%20completed,a%20man%20with%20cerebral%20palsy

当事者俳優の積極的な起用の壁になっているのが、興業収入の問題である。有名な人気俳優を起用すれば、観客動員力が上がるので、やはり非当事者の俳優が優先されてしまう。一方、非当事者の俳優も、高い演技力を求められる障がい者やLGBTQ+の役は俳優としての自分の才能を示す格好の機会となるため、率先して挑戦しようとする(The God is in the TV)。

事実、たとえば歴代のアカデミー賞の主演賞受賞者には、困難な障がいのある主人公を演じたダニエル・デイ=ルイス(1989年)、ダスティ・ホフマン(1988年)、エディ・レッドメイン(2014年)、またトランスジェンダー役のヒラリー・スワンク(1999年)など、こうした役柄で栄誉を得た俳優も少なくない。

障がい/LGBTQ+の役を当事者俳優が演じることのメリットは何か。まず、かれらの出演が増え、俳優をかれらの職業として確立することができる。それは経済的自立を促すだけでなく、自信や誇りを与え、ひいては障がい者やLGBTQ+のコミュニティ全体の社会的地位の向上、アイデンティティの強化にも波及する。多くの人の注目を集める華やかな世界における活躍は、障がいやLGBTQ+の人びとへの偏見、先入観を払拭する機会になる。

そして、当事者が演じることで、より真実味が増す、すなわち「本物らしさ」が挙げられる。俳優は自分が演じる役を徹底的に研究し、本物らしさを追求し、それが上記のような栄誉を生むのではあるが、それでも当事者の「本物」感には及ばない。先のレッドメインはALSで身体の不自由なスティーブン・ホーキング博士を演じてアカデミー賞に輝いたものの、博士の描き方、たとえば身体の動きや車椅子の扱い方がステレオタイプだとの批判に晒された(The God is in the TV)。

確かに、どれほどの巧みな演技でも、本物には敵わない。目にはっきりと見える障がいの場合には、特にそうなのだろう。しかし、LGBTQ+のような外見上はわかり辛い人物を演じる場合はどうか。すべてその当事者が演じるべきなのであろうか。

『キャロル』という映画でレズビアン役を演じたケイト・ブランシェットは「自分の経験を超えた役柄を演じる権利のために死ぬまで戦う」と語り、俳優が役柄を真に理解するには同じ経験をしているべきだという考え方にノーを突きつけた(BBC NEWS JAPAN、2018年10月22日)。

俳優ケイト・ブランシェットさん、異性愛者が同性愛者演じる権利を擁護 - BBCニュース
ハリウッドで性的マイノリティーの役を異性愛者の俳優が演じることについて批判が起こる中、俳優のケイト・ブランシェットさんが、異性愛者の俳優が映画やテレビ番組で同性愛者の役を演じることを擁護した。

門外漢に演技論など理解の彼方ではあるが、一つ言えるのは、当事者しか当事者役は演じられないとの囲い込みはかれらへの偏見を上塗りするばかりか、活躍の場を狭めてしまう。ハリウッドでは同性愛者であることを公表した俳優が異性愛者の役を演じ、演技が賞賛されることも多い。逆もあって然るべきだろう。