これまで、新型コロナウイルスの感染者数は、全数把握された速報値が毎日メディアで報道されていたが、5類への移行後は、定点観測施設からの週1回の公表に変わった。一方、超過死亡については、協力に応じた全国の自治体からの死亡数の報告に基づき、月に2回結果が公表されることになった。6月9日の報告には17の自治体が、6月23日の報告には19の自治体が協力している。
これまでの国立感染症研究所(感染研)から公表される超過死亡は、人口動態調査の結果に基づいていたので、3ヶ月前の時点までしか把握されていない。しかし、迅速把握では、1ヶ月前までの結果が公表されることになった。
激増した2022年の超過死亡については、その原因としてワクチンの可能性について国会でも、再三、質問が続いている。以下は、川田龍平参議院議員による国会質問と厚労省の佐原健康局長の答弁である。
【2022年10月27日参議院厚生労働委員会】
川田龍平参議院議員:超過死亡の原因にワクチン接種の関与があるのか、国の見解を聞きたい。
佐原康之健康局長:ワクチン接種と超過死亡とに因果関係があるかの判断は難しい。
【2022年11月11日参議院本会議】
川田龍平参議院議員:超過死亡とコロナワクチン接種との因果関係について、厚労大臣の見解を伺いたい。
加藤勝信厚生労働大臣:超過死亡の要因のひとつに新型コロナウイルス感染拡大の影響を考えている。超過死亡とワクチン接種との因果関係を論じることは困難である。
【2023年3月9日参議院厚生労働委員会】
川田龍平参議院議員:超過死亡の増加にワクチン接種の関与があるか、国の見解を聞きたい。
佐原康之健康局長:感染研のデータによると、超過死亡はワクチン接種が始まる前から見られており、時系列から考えてワクチン接種との因果関係は考え難い。
【2023年5月16日厚生労働委員会】
川田龍平議員:2021年4月から6月に観察された超過死亡は、ワクチン接種がピークに達する前に発生しており、時系列的な説明がつかないことを理由に、感染研の鈴木センター長は、超過死亡の原因としてワクチン接種の関与を否定している。政府も鈴木センター長の意見をもとに超過死亡へのワクチン接種の関与はないとの見解を示している。
わが国の高齢者に対するワクチン接種は2021年の4月12日から開始されたが、翌週から超過死亡が観察されている。わが国の高齢者接種は特別養護施設に入居しているハイリスクの高齢者から優先してワクチン接種が開始されている。ノルウェーからも、コロナワクチンの接種を受けた23人の高齢者が、ワクチン接種後6日以内に死亡したことが報告されている。リスクの高い高齢者施設の入居者からワクチン接種が始まったことから、ワクチン接種がピークに達する前に超過死亡が生じても不思議ではない。ハイリスク高齢者のワクチン接種開始時期について検討しているか?
佐原康之健康局長:養護施設入居者のワクチン接種時期に関するデータは持ち合わせていない。
【2023年6月1日厚生労働委員会】
川田龍平議員:超過死亡が発生する以前に65歳以上の高齢者でワクチン接種を受けた人はいるか。
佐原健康局長:わが国では、2月17日から医療従事者を対象にワクチン接種を開始しているが、高齢者は4月12日からワクチン接種を開始している。医療従事者にも65歳以上の高齢者が含まれていることから、一部の高齢者は超過死亡の発生する前にワクチン接種を受けたと思われる。しかし、それでもって、感染研の見解が崩れるものではない。
問題となっている高齢者施設入居者の超過死亡については、筆者もアゴラで論じている。 川田議員の執拗な質問に対し、厚労省が危機感を持ち、火消しを図るのはあり得ることである。
厚労省の見解でも超過死亡の原因については結論が出ていないのにもかかわらず、迅速把握した結果が月に2回公表されることになった背景には上記の事情があるのかもしれない。なお、超過死亡の迅速把握は厚労省研究班で行われるが、研究班の代表は感染研の鈴木基センター長である。
図1には6月23日に公表された全国19自治体の超過死亡を示す。2021年以降は一貫して超過死亡が観察されていたが、迅速把握になってからは、一転して過少死亡になっている。
死亡数にはこれまでも波があり、昨年も第3回、4回、5回目のワクチン接種に続いて、2月、8月、12月に超過死亡のピークが見られた。超過死亡の発生時期は、第6波、第7波、第8波とも一致している。
今回、迅速把握の結果が公表された2023年3月から5月はコロナの流行も収束し、6回目のワクチン接種も5月8日から開始されたばかりでその影響を見るには今後の観察が必要である。
2021〜2022年の期間には、死亡数が減少した時期もあるが、過少死亡まで観察された時期は見られていない。感染研からの発表を受けて、NHKをはじめ各メデイアはいずれも「超過死亡見られず」と報道している。
実際に、2023年の3月から5月には、過去と比較して死亡数は減ったのであろうか。人口動態統計では、2023年4月までの全国死亡数が速報されている。図2には過去5年間の3月、4月のわが国の死亡数を示す。
2022年3月には死亡数が激増したので、2023年3月の死亡数は2022年と比較して減少したが、2023年3月の死亡数は、2019年から2021年までの同時期の死亡数と比較してずっと多い。2023年4月に至っては、過去5年間において最も死亡数は多く、過少死亡があったとは思えない。
感染研から発表される超過死亡あるいは過少死亡は、実際の死亡数と予測死亡数との比較で示される。予測死亡数は、過去5年間の死亡数をもとにFarringtonアルゴリズムを用いて予測されるが、2021年から2022年に死亡数が激増したことから、2023年の予測死亡数が高目となり、その結果、過少死亡となった可能性はないだろうか。
図3には、感染研の発表する過去5年間の3月第4週における観測死亡数と予測死亡数を示す。
2023年の予測死亡数は30,218人で、2019年の26,696人、2022年の28,095人と比較してずっと高く設定されている。その結果、予測下限値を下回り過少死亡となったと考えられる。なお、図1の迅速把握のデータは19自治体の速報値から算出されているが、図3は全国を対象とした人口動態統計値から算出されたものである。
ヨーロッパで用いられているEurostat方式では、超過死亡は観測値からコロナの流行が始まる前の2016年から2019年の死亡数の平均値を引いて算出される。表1には、2020年から2023年3月第4週の超過死亡を感染研方式で算出した値とEurostatの方式で算出した値とを比較した。感染研方式では、過少死亡となるのに、Eurostatの方式では8.7%の超過死亡となって随分印象が異なる。
感染研の発表を受けて、各メデイアは、超過死亡が見られなくなったと報道しているが、算出方法によっては超過死亡が続いているという見方もあることを知っておくべきである。