コロナ禍により昨年から何度も延期を余儀なくされていた、ノーベル賞受賞者 本庶佑先生による講演会を、この10月ようやく無事開催することができました。
本庶先生のお話はいつも簡潔明瞭、快刀乱麻を断つが如く鮮やかですが、基調講演はもとより、それに続いてのトークセッションでは、科学技術予算配分の在り方や、さらには大戦中から変わることのない「総括できない日本」というこの国の体質に至るまで、“寸鉄人を刺す”が如き鋭さで事の本質を明らかにする舌鋒は必見(必聞?)です。
実は、私が主催する政策研究会「ジャパン・ビジョン・フォーラム」に本庶先生が登壇くださるのはこれが2回目。
最初の出講は2014年で、本庶先生が開発した「がん免疫療法」により、世界のがん治療にパラダイムシフトと言うべき大変革が起こり、治療薬である免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が、日本で認可される頃でした。
ちなみにこの「がん免疫療法」とは、がん細胞が免疫のはたらきにブレーキをかけ免疫細胞の攻撃を阻止しているので、そのブレーキを解除することで免疫細胞の働きを再活性化させ、がん細胞を攻撃するという治療法で、免疫チェックポイント阻害剤は、チェックポイントと呼ばれる免疫のブレーキ役のはたらきを妨げる効果を持っています。
それまでのがん治療は、胃がんや肺がんなど部位ごとに違う治療薬を投与せねばならなかったのですが、本庶先生が開発した「免疫療法」ですと免疫のブレーキ役に直接働きかけるため、部位を問わずどんながんにも有効なため、きわめて多くの患者さんを救うことができます。
2018年、その功績が認められ本庶先生はノーベル生理学・医学賞を受賞されることとなりました。
この本庶先生のノーベル賞受賞を知った瞬間、私の胸に「日本の科学技術政策を改革するとしたら、今しかない!」という思いが、フツフツと込み上げて来ました。
ここ20年間ほとんどの分野で低迷著しい日本の科学技術、とりわけその基盤をなす基礎科学を振興し、減少の一途をたどる若手研究者を育成するため行動を起こすなら、ノーベル賞受賞で世の中が科学技術に注目している今を逃したら他にない!と思ったわけです。
そこで夫に相談したところ、自民党政務調査会・科学技術イノベーション戦略調査会に「基本問題小委員会」という会を設置し、“基礎科学の振興”と“若手研究者の育成”を主目的として活動ができることとなりました。
この委員会では半年の間に、歴代のノーベル賞受賞者5名をはじめとする産学の重鎮20数名を講師に招き、日本の科学技術政策のあり方について集中的にヒアリングと討議を重ねました。
※なおその後、里見 進氏(日本学術振興会理事長)、大栗 博司氏(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙機構長)、岸 輝雄氏(新構造材料技術研究組合理事長)、村山 斉氏(カリフォルニア大学バークレー校教授も委員会に出講下さいました。
もちろん委員会のキックオフは、ノーベル賞受賞によりマスコミがその一挙手一投足に注目している本庶佑先生に、勝手を承知でお願いさせていただきました。
突然の受賞で国内外から取材や講演依頼が殺到していた先生ですが、発足する委員会の趣旨をお伝えすると即座に「(党本部へ)行きましょう」と快諾して下さいました。
本庶先生が当会で口火を切って下さり、かつきわめて率直に日本の科学技術政策の本質的な問題点について直言して下さったお蔭で、委員会の趣旨はより鮮明となり、同時に党内はもちろん各界から当会はオーソライズされることとなり、翌年春には「基本問題小委員会とりまとめ」という形での提言書の策定・提出まで漕ぎつくことができました。
※「提言書」全文は、以下の記事終わりに掲載
委員会開催中は、基礎科学の振興に懐疑的な議員や官僚から陰に陽に進行を妨げられることもあり、ほぞを噛む思いもしばしばでしたが、そうした時には本庶先生からいただいた「有志竟成」の色紙を取り出しては決意を新たにしました。
策定した「提言書」は自民党総務会で正式に承認され、その内容は政府の「骨太の方針」に盛り込まれることとなり、科研費(科学技術助成事業)の前年度比136億円増をはじめ、10兆円大学ファンドの設立などの施策として実行に移されました。
道はまだ端緒に着いたばかりですが、本庶先生が拓いてくださったこの道を、一歩でも先に進めて行けたら本望です。
編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2021年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。