会長・政治評論家 屋山 太郎
中国人と言えば、怒った顔しか思い浮かばなかったが、最近彼らは極端に無表情である。「白紙革命」というものが流行っているそうだ。町中の人がA4の白紙の紙を掲げて歩くという。白紙に書いてある文字は「反革命」を意味するが、北京市の大通りの高架橋に男が習政権の諸政策を批判し、紙の中身をこう説明した。
PCR検査はいらない。ご飯は必要だ。ロックダウンはいらない。自由は必要だ。ウソはいらない。尊厳は必要だ。文革はいらない。革命は必要だ。領袖はいらない。投票用紙は必要だ。奴隷にはなりたくない。公民になるのだ。
男の説明は実に適切である。国家の末期とも言える現象を男は実にうまく語っている。
昔なら文革のような狂気の政治、経済が襲ってきて老いも若きもどん底までいく。しかし今中国で起こっている現象は「少子化」である。将来に希望がないから、何もしないという風潮が起こっている。
石平氏の新著『習近平帝国のおわりのはじまり』(ビジネス社)の中で少子化の実情が書いてある。中国では2010年までは1人っ子政策が実施されている最中でも、毎年2000万人以上は生まれていた。ところが2015年になると1665万人へと激減した。そのため中国政府は2015年10月、「1人っ子政策」をやめて「第2子容認政策」を打ち出したのである。多少の効果があって2016年には新生児は前年より121万人増えた。
だが2017年にはまた減少に転じて1725万人。18年には前年より200万人少ない1523万人。19年には1465万人、翌20年には1200万人、21年には1062万人と減少傾向が激しくなった。驚いた中国政府は21年に「第3子容認」政策を打ち出したが、22年にはついに1000万人を切って956万人まで減少した。
要するに第2子、第3子を容認したのに2016年から2022年までの7年間の出生率は47%まで減少した。
日本も1979年には164.2万人だった出生数は2021年には81.1万人にまで減少してしまった。ただし日本は半減するのに42年間かかったのに、中国はわずか7年間で達成したのは“異常”としか言いようがない。そこに政治と経済の異常さを感じないわけにはいかない。
専門家は次のようなことを挙げている。①晩婚と結婚率の低減 ②生活様式が悪化 ③子育てコストの高騰 ④生活費の高騰 ⑤若年層の失業率の高さ。
日本にも似たような傾向があるが、中国がひどいのは住宅コストの高騰である。最近中国の最大の建設会社が倒産したが、再建は至難である。失業率も大卒で20%に近い。最近、若者の間ではやっているのは「躺平(タンピン)主義」というもので、寝そべり主義とでも言おうか。「頑張らない。競争しない。欲張らない。心静かに暮らす」とは悟ったもの。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。