きょうのアゴラ起業塾の藤末氏の話で印象的だったのは、「これからの政治は右翼とか左翼とかいう軸ではなく、中国をどう扱うかで決まる」という話です。ケネス・ロゴフもこう述べています:
日本経済がなぜ今のような停滞に陥ったのか、もう一度きちんと考えるところから始めるべきだろう。私は、大きな原因のひとつは、中国の成長をうまく生かせなかった点にあると思う。それどころか、中国の台頭で、世界経済における日本のグラビティ(引力)が下がってしまった。要するに、新たに中国を中心に加えて回りだした世界経済において、日本は敗者となってしまっているのである。中国の経済成長からもっとポジティブなベネフィットが得られるように、とにかく知恵を働かせなければならない。
「世界の工場」にもっとも近い経済大国という有利な立地条件にありながら、それを工場として生かせず、「中国デフレの脅威」といった被害者意識ばかり強い。資産拠点の海外移転による「空洞化」を嘆き、国際分業をたくみに生かした企業に対しては「ユニクロが日本を滅ぼす」などと非難を浴びせる。中国を利用してもうけたのは、アップルやIBMでした。
藤末氏は「自由な市場がベストだという思想は、中国には当てはまらない。韓国も法人税を実質的に半分以下に下げている」と、日本がそれに対抗しないとアジア市場で圧倒されてしまう、という立場でした。こういう国家資本主義をどう見るかというのはむずかしい問題で、かつては途上国では独裁政権のほうが経済発展に効率的だという「開発独裁」という概念もありました。しかし今では、独裁的だったから発展したのか、それとも経済力があったので独裁的だったにもかかわらず発展したのかはわからないとされています。
中国についても、成長を支えているのは「国家」ではなく「資本主義」だという見方も多い。関志雄『チャイナ・アズ・ナンバーワン』によれば、国有企業の経営はボロボロで、成長を牽引しているのは「郷鎮企業」などとよばれる新しい企業です。日本も、かつては通産省がリードする「日本株式会社」だといわれましたが、最近では通産省の産業政策が成長産業にプラスになったケースはほとんどないというのが通説です。
しかし中国が最大の脅威でもあり、パートナーでもあるという事実には変わりありません。そのプレゼンスは、今後大きくなっても小さくなることはないでしょう。それに対して「友愛」の精神で「東アジア共同体」などを呼びかけたところで、乗ってくるとも思えない。中国は自分がアジアの中心になると思っているのだから、今さら衰退する日本と一緒にやる理由はない。
かといって保護主義は最悪の選択です。おそらく日中FTA(自由貿易協定)などによって徐々に経済統合を進めていくことが現実的な選択だと思われます。ところが鳩山政権には、そういうグローバル戦略がまったく欠け、中小企業の返済猶予や雇用規制の強化など内向きの「守り」の政策に終始しています。中国を初めとする新興国をどう位置づけ、日本の産業が国際分業の中でどういう役割を果たすのかというポジショニングが、成長戦略のコアだと思います。
コメント
上海にある知り合いの日系IT企業は昨年、無錫のソフトウェアパークに資本金10万元で、ソフト開発拠点をの外商独資企業として登記しました。私の会社は先月、深�祁に資本金20万元で、ソフトの開発とSaaS販売の会社を登記しました。北京直轄都市および上海近郊のハイテクパークなどでは、これまで100万元以上必要だった外資企業の資本金が、どんどん下がっています。
日本の中小ソフトハウスは、もっと真剣に、中国を開発拠点として利用すべきではないでしょうか。
日本語能力検定1級を取得し、世界中でもっとも日本語の読み書きが堪能な人材が、月給2000元くらいから調達可能です。彼ら彼女らをうまくブリッジSEとして育てれば、いまからでもローコストのソフト開発拠点としての役割を十分にこなす事ができるでしょう。
中国は脅威ではありません。
中国は明確に脅威です。
いずれ、経済、科学技術、外交、軍事の全ての面で、日本を凌駕する大国になるのは明らかではないでしょうか。
日本は、中国への投資から、成長による利回りを得るべきだとは思いますが、積極的に「技術や人材」を移転すべきだとは思いません。
なぜなら、中国は日本から移転した技術を国産技術として扱い、日本との競争に用いることは明らかで、人材とノウハウにしても同じです。
将来も、中国は低賃金の労働力を提供するだけの国と考えるのは甘く、明確に日本と競合する国となる(あるいは既になっている)ことを意識すべきではないでしょうか。
>中国は脅威ではありません。
言葉を改めましょう。中国を脅威に思うべきではありません。
>経済、科学技術、外交、軍事の全ての面で、日本を凌駕する大国になるのは明らか
はい、私も明らかだと思います。現在の中国は、リソース(領土、人口、天然資源、外貨準備高、産業技術の蓄積)と発展速度からいって、近い将来に、米国と方を並べる大国になるであろう国です。
日清戦争以降、日本が中国より先に経済発展したからといって、現実を無視し、これまでの日本のポジションに固執して意地を張るのは合理的ではなく、益もありません。
合理的に考えれば、日本の対中姿勢は、経済・軍事大国に対するものに修正する事を検討するべきではないでしょうか。
>成長による利回りを得るべきだとは思いますが、
発展途上の中国から利益を得ながら、同時に中国の政治・経済へ浸透してゆき、長期的な経済関係を築く事き、中国が名実ともに経済・軍事大国になった後も、安定した関係を維持する事は、日本の経済にとって悪い方向性ではないと考えます。