Do It Yourself:欲しいものは自分で手に入れよ!

Nature誌の8月31日号に「DIY medical devices: The people who built a bionic pancreas」という記事が載っている。DIYはDo It Yourselfの頭文字を取ってもので、「自分でやれ」となる。「DIY医療機器:生きているすい臓を組み立てた人々」という意味か?

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この「人々」の意味するところは、1型糖尿病を持っている人たちだ。大半の糖尿病患者は2型糖尿病であり、運動療法やインスリン注射以外の治療薬で治療できる。インスリンの分泌を促す薬や腎臓での糖の再吸収を抑える薬で血糖値のコントロールが可能である。

しかし、1型糖尿病は自己免疫病であり、自分自身の免疫細胞がすい臓のベータ細胞を破壊することで起こる。ベータ細胞はインスリンを作る細胞であり、これが破壊されると、インスリンを作り出すことができず、非常に高い血糖値を示す病気となる。この病気に罹ると、インスリンを投与しない限り、血糖が異常なまでに高くなり、致死的な状況に至る。

この病気を持っている医師や科学者、特に情報系研究者らが共同して、血糖の状況に応じてインスリンを分泌できる医療機器(Automated insulin delivery=AID)を作り出し、米国のFDAから承認を取り付けたという話だ。常に血糖を測り続ける必要はなく、血糖をモニターしつつ、自動的にインスリンを分泌できる医療機器である。

すい臓はいろいろなホルモンや消化酵素などを作っているので、「生きているすい臓」という表現はオーバーだが、1型糖尿病患者さんたちにとっては、人生の重荷から解放された気持ちに違いない。

ここで大切なことは、大企業が取り組もうとしない医療機器開発に、いろいろな職種の患者さんたちが活動を共にして医療機器としての承認を取り付けたことだ。

研究者・企業・患者が共に病気と闘うという声は、いろいろな所で聞かれるが、真の共同作業はなかなか難しい。きれいごとなのか、本気なのかの見極めも難しい。しかし、患者が真に求めている物を実現するためには、患者さんたち自身が求めている物を明らかにして、行動していく必要がある。

皆が本気で取り組まない限り、日本からは新しいものが生まれない。Do It Yourself!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。