輪島・大谷・トランプの共通項

先に種を明かせれば、この3人の共通項は、「終盤の欠場」をものともせず、輪島は「優勝」し、大谷は「本塁打王」になり、トランプは「大統領候補になる」とうこと。大谷とトランプの結果は、現時点(9月28日)では未確定だが、ほぼそうなるだろう。

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先ずは輪島。日大で2年連続学生横綱になり、70年に幕下付け出しで大相撲デビューするや、幕下を2場所(連続全勝優勝)、十両を4場所で通過し1年で新入幕、大関4場所目の73年夏場所に全勝優勝して、初土俵からわずか3年半で初の学士横綱になった。

欠場したのは73年九州場所。横綱3場所目の輪島は12日連勝し、先場所からの連勝を27に伸ばした。が、好事魔多し、12日の貴乃花戦で右手の指の間が裂けるアクシデントに見舞われる。12日を終えて、9勝3敗の北の湖と貴乃花にも優勝の目が有った。

3日間を残して優勝がかかった13日目、負傷を押して出場した輪島は北の富士に完敗する。だが北の湖と貴乃花が共に敗れて4敗となり、輪島の優勝が決まった。その後、14日目と千秋楽を休場した輪島の優勝成績は12勝2敗1休だった。

裂けた指は「黄金の左」ではなかったが、右も使えてこその「左」だったか。当時、大学生だった筆者がよくやった麻雀は、4人打ちで北家(ペーチャ)が抜けるサンマ。オーラスで抜けていながらトップを取った北家を「輪島」と呼んだ。

次は大谷。今シーズンの彼の大活躍が、筆者(を含む日本人)の日常にどれほど潤いを与えてくれていたかは、「このところ気が晴れないな」と感じ始めた時期が、ちょうど彼がスタメンを外れた頃からだった、と気付いたことではっきりと判った。

現時点(9/28)で各球団とも、全162試合にあと数試合を残すのみだが、打者で135試合出場した大谷の欠場は27試合、投手では23試合で132イニング投げた。MLBの規定投球回数は試合数と同じだから、大谷は30イニング(ほぼ5試合分)不足した。

打者では本塁打王確実(44本)、打率も.305で3位、打点95は欠場前Top5だった。何より凄いのはOPS(出塁率+長打率:「青木率」に似る)1.066。あとの1超えはナリーグで現在首位打者.333のシーガー1.031とアリーグのアクーニャの1.010だけだ。

終盤の怪我で、投手大谷が規定投球回数に達しなかったのは残念だが、それでも10勝したし、1試合当りの奪三振率11.39個はガウスマンの11.53個に次ぐ2位、二桁は10台があと3人いるだけ。2度目の手術から、一日も早い復帰を祈るばかりだ。

ここ2回の共和党大統領候補予備選討論会 ― 8月23日の1回目(ウィスコンシン州ミルウォーキー)と9月27日の2回目(カリフォルニア州シミバレー)― を両方とも欠場したトランプをここに並べるのは少々強引だが、ここから本題なのでどうかお許しを。

4年ごと11月最初の月曜の翌日が投票日となる米大統領選は1年半の長丁場だ。党に申し出れば候補になれるので、第1回目には条件(一定数の献金者の存在や1%以上の世論調査支持率など)を満たし、RNC(共和党全国委員会)が認めた9人のうちトランプを除く以下の8人が参加した。

フロリダ州知事ロン・デサンティス、投資家のヴィヴェク・ラマスワミ、前副大統領マイク・ペンス、元国連大使ニッキー・ヘイリー、サウスカロライナ州上院議員ティム・スコット、前ニュージャージー州知事クリス・クリスティ、ノースダコタ州知事ダグ・バーガム、前アーカンソー州知事エイサ・ハッチンソンだ。

トランプは25日、ペンシルベニア州の民主党知事が法制化抜きで、DCなど24の民主党知事州で導入している有権者登録の自動化(AVR)を導入することへの対抗を共和党とRNCに促す檄を、トゥルース・ソーシャルに書き込んだ。

ペンシルベニアがまたやっている! 急進左派知事シャピロは自動有権者登録への切り替えを発表した。これは完全に違憲で、ワシントンとペンシルベニアの共和党指導部は厳しく対処せねばならない。RNCとロナ・マクダニエル(*RNC会長)は、私が50ポイント以上の差をつけている無意味な討論会の代わりに、これに取り組むことに時間を費やさなければならない。

トランプは2日後に行われる討論会の出席予定者をあだ名で呼び、こうも書いた。

ペンシルベニア州、ミシガン州、ジョージア州、アリゾナ州、ウィスコンシン州は、“Aida”、Sloppyクリス、Lyin’ マイク・ペンス、ニッキー “Birdbrain “ヘイリー、ロン”Dead Campaign”デサンクティモニアスなどよりはるかに重要だ。今すぐ訴訟を開始し、今度こそ正しい弁護士を雇うんだ!

“アイーダ”はエイサ・ハッチンソンのあだ名だが彼は出なかった。他はクリスティが「雑な」、ペンスが「嘘つき」、ヘイリーが「小鳥脳」、デサンティスが「終わってる」といった具合で、ラマスワミ、スコット、バーガムは名前が入っていない。

トランプが討論会に出なかったのは、ペンシルベニアなどのスウィングステートで起きていることへの対応の方が、世論調査で「50ポイント以上の差をつけている」連中を相手の無意味な討論会より余程重要だからだ。以下の世論調査がそれを裏付ける。

WaPO/ABC調査(9月15日~20日)対象:全国の共和党員と共和党寄り無党派474人

トランプ:54%
デサンティス:15%
ヘイリー:7%
ペンス:6%
スコット:4%
クリスティ:3%
ラマスワミ:3%
バーガム:>1%
ハッチンソン:>1%
その他:6%
意見なし:4%

トラファルガー全国調査(9月18日~21日)対象:全国の共和党予備選挙有権者1,091人

トランプ:56.1%
デサンティス:14.3%
ラマスワミ:5.9%
ヘイリー:4.2%
ペンス:3.8%
バーガム:3.2%
クリスティ:3.2%
スコット:3.0%
保守系放送司会者ラリー・エルダー:1.3%
ミシガン州の実業家ペリー・ジョンソン:1.1%
ハッチンソン:0.4%
テキサスの実業家ライアン・ビンクリー:0.2%
ウィル・ハード元テキサス州下院議員:0.1%
未定: 3.1%

トラファルガー・アイオワ調査(9月14日~18日)対象:同州共和党党員集会の有権者1,079人

トランプ:48.6%
デサンティス:6.2%
ヘイリー:8.4%
スコット:6.8%
ラマスワミ:6.6%
ペンス:3.8%
バーガム:3.6%
クリスティ:2.2%
ジョンソン:0.8%
ハッチンソン:0.4%
ビンクリー:0.2%
エルダー:0.2%
ハード:0.1%
未定:2.2%

トラファルガーは過去の世論調査で、「あなたの知人はトランプを評しているか」との設問で、より実態に近いトランプ支持率を明らかにしたことで知られている。

エマーソン大学世論調査(9月17日~18日)対象:登録有権者1,125人

トランプ:59%
デサンティス:12%
ラマスワミ:7%
クリスティ:5%
ペンス:5%
ヘイリー:3%
スコット:2%
未定:5%

2回目の討論会の様子を、民主党のベテランストラジティスト、マックス・バーンズは28日の「The Hill」にこう書いている。

共和党候補者らが互いに罵り合う2時間の討論会を終えて、なぜ避けられるはずの屈辱に共和党がこれほど晒され続けるのかとの疑問を持つのは当然だろう。最有力候補のトランプは討論会を欠席すると発表して、早々と見出しを飾った。

振り返るとこれは賢明な決断に思える。討論会を経て強くなった人は誰もいなかったからだ。国民が目にしたのは、トランプの圧倒的な世論調査リードに直面していることをまともに受け止められず、候補者の誰もが大勢の有権者に主張できないという、完全に分裂した共和党の姿だった。

共和党が怒りに取り憑かれていることも浮き彫りになった。それは自らと他の候補者たちに対する、ドナルド・トランプに対する、メキシコに対する、そして全世界に対する怒りだ。

トランプが予想した通りの成り行きだったようで、バーンズも討論会を批判するつもりが、むしろトランプ上げになってしまい苦笑いの体だろう。1回目の討論会の後、西山隆行成蹊大教授はこう指摘していた。

トランプは討論会を欠席したが、大きな存在感を示す人物であることを証明した。共和党候補となるためにはトランプを批判する必要があるが、トランプの背後にいる支持者を離反させては本選挙で勝てないというジレンマを全候補が抱えている。

果たして、討論会は2回とも候補者同士の潰し合いの様相を呈した。11月8日の3回目(マイアミ)についてトランプは「ブレイクする候補者はいないだろう」と述べたので、これにも出ないだろう。が、予備選に勝ったとして、来年11月の本選にトランプが勝てるかどうか。最後にそれを世論調査から考察してみたい。民主党の対抗馬はいずれもバイデンだ。

24日の「Axios」でマイク・アレンが「トランプ、バイデンに対する全国的な差を拡大」との見出しで、「ABC/WaPo」がバイデン42% vs. トランプ51%、「NBC」がバイデン46% vs. トランプ46%との結果だった世論調査の記事を書いている。

記事は、「ABC/WaPo」の差は異常値だが「両方の世論調査のバイデン不支持率が56%なのは危険な領域だ」としている。興味深いのは、信頼されている世論調査員の一人、ABCニュースのゲイリー・ランガーのコメントだ。

バイデンは全体的に不人気だ…バイデンがどのような結末を迎えるにせよ、かなりの米国人がこの機会を利用して不満を表明している。トランプの再任を憲法で禁止すべきだと回答した者のうち 18%が、バイデンよりトランプを支持している。彼らはトランプへの支持ではなく、バイデンへの反感を表明しているようだ。

筆者は昨年の11月の中間選挙でトランプの2期目を確信したが、それには彼が挙げた「ペンシルベニア、ミシガン、ジョージア、アリゾナ、ウィスコンシン」のスイングステート5州で勝つことが絶対条件だ。その他の州の大勢が動くことはないからだ。

トランプに対する4件の「魔女狩り」が常軌を逸しているとの認識が、米国の無党派層にも広がりつつあるように思う。もしこのどれかの裁判で収監されたままのトランプが大統領選に勝つようならまさに「シン・輪島」「シン・大谷」の誕生。