「中学校部活動の地域移行」が地域力を向上させる:地域力向上モデルの提唱

加藤 拓磨

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1.部活動の地域移行

スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE「令和5年度から休日の部活動の地域連携・地域移行が始まります」によれば、少子化により、1運動部あたりの人数・運動部活数は減少傾向にある。

図1 中学校の在学者数・1運動部当たりの人数・運動部活動数

少子化に加え、雑務が増えた教員の労働環境の改善、生徒たちの運動・文化芸術に対する考え方の変化など、ネガティブな要因が部活動の継続を困難とさせている。そこで文部科学省・スポーツ庁は「部活動の地域移行」を令和5年度より開始した。

図2 部活動の地域移行って?

当初、著者は「部活動の地域移行」は部活動の継続を目的とした延命治療と思っていたが、様々なメディアで室伏広治スポーツ庁長官が語る深い考えに触れ、自治体において子どもたちの教育活動、地域力向上の最大のチャンスになるとの考えに至った。

室伏広治長官は、運動部活動改革~「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」の策定~において、以下のように述べられている。

中学校の部活動は3年生の途中で引退となり、運動から離れ、その後継続されないケースも多いかと思います。しかし、成長期の子供にとって身体に適度な刺激を与えることは大変重要です。

地域での活動であればスポーツを継続して行うことができますし、世代を超えて一緒にスポーツを楽しむことができ、さらに学校以外のコミュニティにおける社会性も身に付けることができます。これを実現するためには、学校のみならず地域全体でスポーツ環境を整え、活性化していくことが重要です。

また教師の方々の中にも部活動指導者を目指して、教師になられた方も多くおられると思います。日頃より部活動にご尽力されている教師の方々には、ぜひ地域のスポーツ活動でご活躍いただきたく思います。

地域では、中学生だけではなく小学生や大人といった他の世代との交流もあるかと思います。その交流を通じて、指導者として更なる指導力の向上に結び付けていただきたいと思います。

ポイントは、現状では学生時代で運動する習慣がなくなるが、部活動の地域移行によって生涯スポーツにできる可能性が高まることにある。また、あらゆる世代が関わることで地域活動の軸となり、地域力の向上にも資する。

2.地域力向上モデルの提唱

ここで全く話が変わるが、「地域力向上モデル」を提唱する。「部活動の地域移行」が地域力向上に資するとの仮説を含めたものである。図3は著者が議員を務める中野区を例とした地域向上モデル(町会等の現状と理想)である。

図3 町会等の現状と地域力向上モデル

まず左図の「現状」について説明する。あくまでイメージである。横実線(-)が横の繋がり、つまり同期・世代の繋がりである。縦二重線(||)は縦の繋がり、つまり同じ地元の小中学校の卒業生、趣味、地域活動で世代を超えた関係を示している。そして黄色で示すエリアは当該団体で主に活動する世代である。

現在、町会・商店街等の地域団体は高齢化に伴い、地域力が低下していることが懸念されている。町会において、横実線のように様々な世代が住むものの、町会活動においては仕事をリタイアされた方、60歳以上で、中心は70・80歳代が主要メンバーとなる。また縦両矢印(↕)は世代間ギャップを示しており、ギャップがあるためになかなか価値観が合わないことを意味している。

先日ある会合で20代の若者が彼自身の知っている曲の中で最も古いものなのか、カラオケで尾崎豊を歌ったものの、参加者の主要世代にはまだ30年間分の世代間ギャップが存在し、どの世代にも刺さらず、挙句の果てに大御所たちに何の曲を入れたのかと指摘をされていた。

昔は茶の間で一つのテレビを家族団らんで見ていた時代は、世代を超えた国民的な曲があったが、ウォークマンの誕生、インターネット等の普及により、個人個人が好きな曲を聴くようになった。曲だけではなく様々な多様な価値観が醸成される世の中になり、世代間ギャップどころか、価値観のギャップがさらに広がる状況、共通言語がない中で、町会活動で仲間意識をつくることは困難である。

世代間ギャップを埋める共通言語としては、地域には同じ小中学校、いわゆる同小(おなしょう)、同中(おなちゅう)という縦の繋がりがあり、地域の強い絆であるものの、一方、地域外の人を排他的にする要因にもなりえる。

中野区は年間10%の人口が転入・転出を繰り返す地域であり、よそ者をどれだけ仲間にできるかが地域力向上、持続可能な活動を推進する上で重要である。そのため同小、同中以外の共通の世代間を超える縦軸を形成することが今後の地域活動向上に肝要である。

前段が長くなったが、世代ギャップを串刺しする新たな縦軸として「部活動の地域移行」が有効と考える。図3右図は著者が描く地域活動の「理想」のイメージである。世代間を串刺しにする縦軸にはスポーツや趣味などがあればいい。中学校「部活動の地域移行」はまさにこれに充てはまると考える。

中学校の「部活動の地域移行」の最終形態は、中学生が「地域」のスポーツクラブ、文化芸術団体などに所属することであり、現在はその移行期間であると認識しなければならない。

地域の方々にいきなり中学生の指導を要望してもその体制を即座に構築はできない。スムーズにその体制を構築するためには、おそらく少年野球、サッカーなどの小学生を中心とした地域スポーツクラブに中学生までみてもらうというイメージが主流になると考える。

全国中学校体育連盟ではあらゆる中学生のスポーツ大会に対して、地域スポーツ団体の出場ができるように指導しているとのことである。全国的に「部活動の地域移行」が推進されれば、中学生たちは地域スポーツクラブ、文化芸術に関するに所属し、中学校卒業を機に活動を引退することもなく、高校・大学生以上になってもプレイヤー、指導者として地域スポーツクラブ等に所属し続ける可能性が高まる。となれば、地域スポーツ、文化芸術団体などは地域における世代間を超える縦軸になりえると考える。

先日、著者は区政活動をきっかけに高校15期上の先輩と初めてお会いする機会を得た。お初にお目にかかったわけだが、私が高校時代に所属していたアメフト部の先輩がその方の同期でもあったため、共通の知り合いがいることで、一気に関係を縮めることができた。

縦と横の軸をしっかりとすることで斜めの関係も作れる。大学でも体育会系、サークル、ゼミ、研究室などの縦の軸がしっかりしているからこそ、他組織よりも強靭さがあると考える。また地域において、スポーツ・趣味などの共通言語があれば、区外からの転入者も地域に入りやすい。後々は地域スポーツクラブなどの縁が町会活動などの地域活動の一助になることを期待する。ちなみに先日、著者が地域活動の広報誌に地域スポーツ団体の紹介記事(図5)を掲載したところ、反響があった。それぞれの活動を助け合う環境の創造が肝要であると感じた。

図4 地域スポーツクラブ紹介記事(地域ボランティア団体の広報誌において)

3.部活動の地域移行の具体的な推進

「部活動の地域移行」を進める上で中学校現場の声を聴くと、ダンスのニーズが高いとのことである。ダンスはスポーツであり、文化芸術でもあり、部活動の地域移行のモデルケースとして、今後の事業推進の試金石になり、中野区は現在推進中である。

「部活動の地域移行」は休日に実施する。ダンスの地域移行をする中で、ダンスを本気でやりたい人は平日もできるダンススクールに入会に導くこともあれば、SNS用のダンスを学びたいというライト層も楽しめる幅、濃淡が必要である。間口が広ければ、「平日は野球をやっているが土日はダンスをやる兼部のような形態を取りたい」と考える生徒も多数いるはずである。

そして中野区においては2029年に竣工予定の中野四丁目新北口駅前地区エリア(新サンプラザ)にできるアリーナ(図5)で、ダンスを学んだ人たちが演技できる舞台を用意するなど目標を作ることが重要である。そして部活動の地域移行の種類をさらに増やすことで、地域スポーツ、文化芸術団体としての活動を活性化し、区民同士の交流、世代を超えた地域コミュニティの構築が可能になると考える。

図5 新サンプラザのアリーナイメージ

4.部活動の地域移行で期待する副次的効果

子ども達には様々な経験をしてもらいたい。著者は小学校の鼓笛隊で音楽の先生からトランペットをやってもいいといわれて、基本といわれるマウスピースのみで音を鳴らすことに一週間挑戦したが、全くうまくできずに断念した。挫折というよりは向いてないと判断できた。例えば、そのトランペットの過去の経験がなく、いい歳になってトランペット吹きたかったなどという、今やらない後悔はなく、なんでも経験するものだと振り返る。

最新の脳科学では「ぼーっと」するとき、私たちの脳は活動を休止するのではなく、脳の広い領域が活性化している「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる不思議な状態になるそうである。脳の神経細胞同士のつながりをシナプスという解剖学的構造物を通して行われる神経活動で、無意識のうちに私たちの脳の中に散らばる「記憶の断片」をつなぎ合わせ、時に思わぬ「ひらめき」を生み出していくのではないか、と今大注目されている。

ひらめくためにも「記憶の断片」をたくさん用意しておく必要がある。様々な経験できる可能性がある「部活動の地域移行」に期待を寄せる。