第二次大戦時の東アジアでの悲惨な事実を伝える博物館が6月8日にトロントで開館します。この博物館の名前はAsia Pacific Peace Museumと称するもので主導したのはAlpha Education(略称 Toronto Alpha)という中華系団体です。博物館の計画はだいぶ前からあったのですが、工事が遅れに遅れ、ようやく開館に至るというものです。
一部の人たちの間でこの博物館に対する関心が高まっており、どのようなものになるのか、気になるところです。懸念される理由はもともとAlphaという団体が表面上は人権擁護を謳っていますが、実質的に旧日本軍の行為に対する抗日的思想が強く、これまでも数々の旧日本軍の行為を批判し、その運動を展開してきました。
最も大きいのが南京大虐殺に絡む周知活動でそれ以外にも731部隊の活動をトロント大学のパブリックビューができるスペースで紹介するなど必要以上に一方的で過信した情報を流し、安倍首相が在任しているときにはそれらの展示物と首相の顔を重ね合わせるようなこともしました。
博物館建設の資金の多くは寄付金を募ったうえで進めているはずですが、実質的にはJoseph Wong氏というトロント中華系社会で名士中の名士が大きな資金負担をしていると認識しています。Wong氏は香港系中国人としてビジネスマンでもあり、かつ、教育者でもありDoctorの称号を持ち、数々のアワードも受賞しています。その氏が長年尽力してきた活動の一つが第二次大戦中の東アジアでの歴史的事実に関する教育事業であり、それを遂行するためにAlpha Educationを設立しています。
Alphaという組織はバンクーバーを含め北米各地に存在しますが、横の連携は比較的薄く、それぞれの地域のAlphaがそれぞれに活動をしています。たぶんですが、Toronto Alphaは最も精力的に活動しているところだと推察しています。その理由は設立者であるWong氏の強い指導力と資金力によるところが大きいのではないかと思われます。
今回開館する博物館の規模は比較的小さいのですが、1階と2階の一部に展示物を中心としたものを並べているようです。主なものとして当時、日本軍が東アジアにいかに進軍、拡大していったかという概要、南京大虐殺、シンガポール華僑粛清事件、マニラ大虐殺、731部隊、慰安婦、徴用工、広島長崎の原爆の個別案件が1階展示場に、2階には終戦後のイベントとして東京裁判、GHQなどが展示される模様です。なお、2階にはホール、およびクラスルームも配置されており、将来的に学校の課外教育に使うものと察しています。
ちなみにこの博物館、入館料が無料のようです。つまり明らかに教育的観点のみならず、宣伝広告的な要素をより強く印象付ける感じがいたします。当然ながら運営費はどうするのか、という疑問も出てきます。Wong氏がそこまで出すのでしょうか?
さて、当地の教育は日本のような統一感がなく、学校や先生によって自由度をもったカリキュラムを組んでいます。
よく現地の教科書を入手してくれ、と頼まれるのですが、学校と先生により使う教科書がばらばらな上に、学年度の終わりに教科書を先生が回収して翌年また使うので教科書が出回りません(今は紙から電子教科書になったかもしれません)。よって、クラスによりアジアの歴史教育にフォーカスするところもあれば世界史やカナダ史にウェイトを置くといった具合で誰が何を教えているのか統一感がありません。
Alpha Educationは一部の教育委員会と明白に繋がっており、それらの生徒を課外授業と称し、この博物館に連れてきておどろおどろしい展示物を見せ、クラスルームで専門家なり博物館の館員の方が「こんな歴史があった」とレクチャーすることは容易に想像できます。当然、子供たちはそれなりの印象を持つというのが流れになります。
例えばバンクーバーでかつて歴史問題が生じた時も、このような学校教育が行われた結果、日本人の生徒がクラスから蔑視されたりいじめの対象になったということもあったようで、今回、このような博物館でそのような課外授業が行われれば当然ながら派生的問題も生じやすくなります。
博物館の展示内容とその補足説明がどのようになっているかは実際にまだ開館していないので想像の域を出ませんが、上述のテーマを見ればその内容が事実に即しているのか、強いバイアスがかかったものか、すべての写真が本物なのか、説明が正しく記載されているのかなど気なる点はあります。しかし、専門家や詳しい人でない限りそれを見たほぼすべての訪問者は同様のイメージを持つだろうと思われます。
先日、このブログでバイアス(先入観、偏見)の話をしました。誰にでもバイアスはあるのですが、そのバイアスを広義の意味での宣教をしたいのか、学術的にも不明瞭な歴史的事実をあたかもそうであったと断定的に紹介してしまうのか、それによりゆがめられたバイアスはどう修正するのかという問題を含め、注意深い対応が必要になると思います。
私としてはこのような趣旨の博物館よりも中国近代歴史博物館でも作り、文化大革命、天安門事件、ウイグルなどでの差別、香港問題、台湾問題を事実として取り上げたほうがよっぽど今の人にはインパクトがあるし、重要な課題だと思います。
歴史問題は世界の歴史の大きな枠組みの中においてどのような位置づけだったのかをきちんと理解せず、ごく一部の事象だけを切り取ってどうこう議論しても論理的には薄弱なものになります。各々の歴史問題は世界史の中のごく一部分にすぎないという中で大局を捉えるということをまずは理解してもらいたいと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月31日の記事より転載させていただきました。