パリで開催されていたユーロサトリがやっと終わりました。今週はドイツで仕事があるのでまだこちらにいます。
さてサトリではKNDSとラインメタルがそれぞれ140ミリ砲搭載のEMBT ADT-140、130ミリ砲搭載の次世代の無人砲塔、CUTをレオパルドの車体に搭載した実証車を出していました。
おそらくは独仏の次世代戦車が世界のデファクトスタンダードになるのでしょう。開発力やシステム統合の能力の面から、アメリカの次世代戦車がデファクトスタンダードにはなりにくいと思います。
両社とも複数の実証車や既存の改良型を展示しており、将来戦車に確固たるビジョンがないようにも思えました。
個人的には次世代のMBTは120ミリ砲のままではないかと思います。
そもそも論でいえば、何のために戦車が必要なのか。主たる任務は対戦車戦なのか、歩兵の火力支援の動く砲塔なのか。そして何が戦車の一番の脅威なのか。
それがはっきりしていないのに、大戦後の主砲の大口径化の流れで、130ミリや140ミリといったより大口径の砲を開発しているように思えます。ですが、現在の戦車は重量が70トン前後であり、これが重量の限界でしょう。
これらの弾薬は既存の120ミリ砲の2倍以上の重さがあります。KNDSの担当者は無人砲塔にして重量を軽減したので、自動装填装置と併せて砲弾を搭載できるので問題ないと主張していますが、携行砲弾数は大幅に減らざるをえない。その場合、歩兵支援も併せて行う場合に徹甲弾や榴弾など複数の弾種が必要ですが、十分に搭載できるのか。都市戦で例えば140ミリ砲弾をバカスカ撃てるのか。そういう問題もあります。
確かにウクライナでは戦車同士の戦闘がありましたが、それが将来の戦車の主たる任務になるかは確証がなく、非対称戦争みたいな任務が主力になるかもしれません。
そうなると弾数は必要ですが、大口径砲では実現は無理でしょう。更に申せば、120ミリ砲のように人力で戦車に装填することは不可能であり、機械的な手段が必要となります。それが戦場で機能するか、という問題もあります。
それから防御力の問題です。両社ともアクティブ・プロテクション・システム、パッシブ・プロテクション・システムを採用していました。更に上面装甲の強化がなされ、ドローンジャマー、RWSも機銃と機関砲が搭載されており、特にドローンに対して装備されています。
また同軸機銃も12.7ミリ機銃が装備されて、より遠距離からの歩兵などの脅威の排除を狙っています。これは歩兵の携行対戦車火器や無人車輌の発達に合わせたものでしょう。
こういう現実をみると、かつてのJSF君の論考を読み返すと乾いた笑いしかでてきません。
陸上自衛隊の10式戦車にRWS(リモートウェポンシステム)が搭載されていないと批判している人(軍事ライターの清谷信一さん等)が居ますけれど、当のRWS開発元のイスラエルがメルカバ戦車に積んでない点を見れば、今のところ戦車にはRWSは特に必要が無い事が実戦で証明されているという事が言えるでしょう。一応メルカバMK.4向けに提案されてはいますが一向に採用する様子が見られず、現状では戦車に搭載してもいいけれど優先順位が低い装備としか見做されていません。元々この装備は砲塔を持たない装甲車向けの装備であり、全周旋回砲塔に主砲と同軸機銃を持つ戦車に対して無理に追加する必要性が無いのです。(装甲車の場合でも、全周旋回砲塔に戦車砲と同軸機銃を積むストライカーMGSはRWSを装備せず、車長用ハッチには通常形式の上半身を乗り出して使う機関砲を装備しています。)
そもそもRWSとは防御用の兵装であり、戦車が積極的に攻性的な対人戦闘する場合は主砲と同軸機銃を使います。つまり周囲にゲリラや民兵が沢山潜んでいて何時襲ってくるか分からない状況ならば防御戦闘が重視されますが、少数の特殊部隊やテロリストを狩り出す任務ならば積極攻撃となるので、RWSの必要性は低くなります。日本国内で戦車が対人戦闘する場合を想定するならば明らかに積極攻撃する側であり、RWSを特に必要としないのです。
現在の進化したRWSならば、他に武装の無い装甲車ならば普及して来たと言えます。乗員が身を乗り出すより安全です。しかし戦車には既に身を乗り出さずに撃てる主砲と同軸機関銃があります。RWSはよほど性能が向上しない限り、戦車への普及は見られないでしょう。現在の進化したRWSは幾分に高価であり、費用対効果の面で戦車のあまり使わない付属装備としては釣り合いが取れず、何度も言いますが当のRWS開発元のイスラエルですらメルカバ戦車への搭載をまだ行っていない事から、必要性が薄い事が証明されています。
いや、面白いですね。10式は正しい、自衛隊は常に正しいという、カルト宗教みたいなドクマをもっていると、このように現実が見えなくなるようです。
さて、話を戻しまして、ドローンの脅威は無視はできません。ウクライナ戦の教訓でドローンジャマーは発達するでしょうが、ドローン側でも対策はとるでしょう。
また戦車自体も偵察や自爆ドローンを搭載しています。これは探知範囲が拡大するということです。また対戦車ミサイルを搭載します。対して、いくら頑張っても直接照準の戦車砲による交戦は3キロ程度です。
果たして3キロ程度の交戦で多少優位をとるために砲の巨大化が必要か考慮すべきでしょう。
いまやドローンや、その他の偵察手段により、はるか先からの索敵が可能です。戦車の敵はUGVも存在します。戦車に先行した対戦車火器を搭載した無人車輌が8キロ先から戦車を攻撃できます。そしてこれが撃破されても人的な損害は出ません。
また砲兵による攻撃もあります。榴弾砲や迫撃砲の精密誘導砲弾による攻撃が増えてくるでしょう。ウクライナでは妨害で精密誘導砲弾の命中精度が下がりました。レーザーでジグネターを使うなどのセミアクティブ方式であれば妨害は難しいでしょう。
また主砲が大口径である必要があるかという問題もあります。敵戦車を完全破壊する必要はなく、相手戦車のセンサーを潰せばいいわけです。また衝撃によって乗員にダメージを与えればいい。実際ウクライナではブラッドレーが旧式戦車相手とはいえ、25ミリ機関砲の連打で敵戦車を撃破しています。
このような現場をみるに、次世代戦車は現状の120ミリクラス、あるいはそれ以下の主砲でもいいのではないか、極論すれば35ミリAHEAD弾を使用する機関砲を主砲でもいいでしょう。また歩兵支援のための榴弾を多用するのであれば76ミリや90ミリ砲でもいいでしょう。これらの砲を採用して仰角を大きくすればドローンなどの偵察情報に基づいて間接射撃もできるはずです。であれば、10キロ以上先から敵戦車の弱点である上部を狙うことができます。
また次世代戦車では、戦車自体が、ドローンに加えて数両の無人車輌を引き連れる事にならざるを得ないのではないでしょうか。これらには機関砲やATMを搭載したRWSや、防御用のシステムを搭載して、出城や外堀の役目を与えれば、戦車に対する被害を極小化できるでしょう。さらにこれらを小隊や中隊規模でネットワーク化する必要もでてくるでしょう。であれば乗員は4、5人になるかもしれません。
今回の展示では新世代の車体に関する展示があまりありませんでしたが、それは開発の難しさの現れかもしれません。個人的には搭載システムの拡充に対応するならばハイブリッド駆動にすべきだと思います。
一番必要なのは乗員を守る強固な車体、その他の防御用システムをそなえて生存性をい徹底的に追求し、常に相手側を圧迫する存在であることではないかと思います。
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Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
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月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。