「私、憤慨してます!」
知名度のある野党の論客議員で、性別は女性。支援者からは圧倒的な支持がある一方で、それ以上に舌鋒鋭く与党を批判する姿に対して強烈に反感や不快感を持たれている国会議員。
辻本清美氏、蓮舫氏、山尾志桜里氏(苗字は議員当時のもの)をイメージさせる主人公像で、リベラルを謡いながら実は旧態依然の政党の中で、上司の男性幹事長・田神からも足を引っ張られる。
常に目つき鋭く論戦モードの衆議院議員・高月馨が、与党議員に対して「憤慨してます」と切り込んでいく姿はお茶の間にも広く定着している。ここに試験を通過して僅か20代後半で高月の政策秘書となった沢村明美が加わり、元総理大臣を父に持ち将来を嘱望された朝沼侑子の不審死を追う。
本書は高月と沢村が主となる「国会」、「政治記者」、「地方議員」、「選挙」の全四章から成る。
「『俺は、俺のことが嫌いな奴が、好きだ』 永田町で半世紀以上生き抜いた男の、妖怪じみた目がこちらに向いた」
毎朝新聞の和田山怜奈記者は、男社会の永田町で圧倒的少数派の女性。数々のセクハラに遭いながらも、与党幹事長三好顕造に食らいつく。早朝や深夜に取材対象の自宅に押し掛ける夜討ち朝駆けで三好と車内で二人きりで話す機会を得るが、その場に入ることを許されなかった他社の男性記者たちからのあたりは強くなる。
自民党本部を中心に永田町周辺を歩いていると、議員を中心に4~5人の記者が囲みながら一緒に歩く風景を頻繁に見かける。それが与党幹事長であれば付き添う人数はさらに多く、なおさらその口から発せられる一言一言がニュースとしての潜在的価値を帯びる。
取材しながらお互いに記者同士監視し合う環境であるため、二人きりでの取材は独占スクープへのチャンスである。そんな中で、ふとしたことから入院中の病院内で和田山が三好にコメントを迫る情景と、老練で妖怪じみた三好が和田山に返すやりとりは息を呑む。
評者は元国会議員秘書として、本書で躍動する高月議員を性別は違えども佐藤正久参議院議員に、また和田山怜奈記者を当時付き合いのあった新聞社政治部記者の動きと無意識に重ねて見てしまう。
そしていま、評者自身が地方議員として見ている世界や選挙の実態から、第3章「地方議員」の間橋みゆき市会議員に対しても共感をもつ。なにより天梅酒店という永田町に実在する天竹酒店を想像させる場所から話が始まるのだから、その描写一つ一つに冒頭から物語に引き込まれる。最後に明らかになった結論は驚きの内容で唐突感もあるが、しかし結論に至る本書の臨場感はまったく失われてはいない。
書名に「女の」と書かれていても、また主要人物が女性であったとしても、本作品の面白さは性別を越える。永田町で働いている関係者にも、また政治全般に関心のある一般の読者にも自信をもってお勧めしたい。
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