BBC、スキャンダルで長期不在の元キャスターにも高額報酬:収入減で人員整理も予定

BBCの年次報告書の表紙

23日、英BBCの年次報告書(2023年4月から2024年3月)が公表されたが、毎年注目の的となるのが、出演者及び経営陣の中で「だれがどれほどの高額報酬を得たのか」だ。

視聴世帯から徴収する放送受信料(「テレビライセンス料」)で国内の放送・配信活動を賄っているという組織の構造上、どのようにお金が使われたのかが大きな関心事となる。

今年、ひときわ目を引いたのが、スキャンダルで昨年7月から職務停止となり、今年4月に退職した、大物キャスター、ヒュー・エドワーズへの報酬額だ。

スキャンダルの発端は大衆紙サンによる報道で、エドワーズは未成年者に性的に露骨な写真を要求し、これに日本円で約600万円相当を払ったという疑惑である。現在は成人となったこの未成年は、当初は17歳だった。

未成年者のわいせつな写真を撮影する、所有するなどの行為は刑法に違反する可能性がある。警察が捜査に入ったが、「刑事犯罪の証拠なし」という結果が出た。

真相はどうだったのかについては、未だに不明だ。

当初、エドワーズの名前は報道されず、後に妻が夫がこの人物であると公表した。エドワーズは「入院中」と説明された。本人からの説明は、現時点ではされていない。

そのエドワーズだが、年次報告書がカバーする期間のほとんどを職務停止となっていたにもかかわらず、前年度よりも4万ポンド(約800万円)報酬が上昇していた。

ちなみに、BBCは正確な金額ではなく「xxポンドからxxポンドの間」という形で公表している。以下、便宜上、最初の金額を例にして話を進めたい。

つまり、前年度は43万5000ポンドであったのに、最新年度では47万5000ポンド(約9465万円)にあがったのである。

職務停止中にはBBCの内部調査も行われた。それでも、職員の一人であったので、既定の金額が支払われていた。

経営陣トップのティム・デイビーは、報酬上昇はスキャンダル発覚前のエドワーズの責任と勤務の長時間化を反映したもので、「通常の規則通り」という。退職金は支払われなかった。

「1ポンドも無駄に使いたくはないが、誰にとっても公正な報酬体系でありたい」。

トップはサッカーの解説者リネカー

BBCは毎年、年次報告書の中で、年間報酬額が17万8000ポンド(約3547万円)を超える人のリストを発表している。今年は46人がこの中に入った。

英国の首相の給与は国会議員としての報酬が9万1346ポンド、首相という職務への報酬が8万807ポンド(実際には7万5440ポンドを申請するという)。合計約17万ポンドであるので、「首相の給与以上を得る人のリスト」と言ってもよいだろう。

ニュース報道部門の出演者の中で、トップはヒュー・エドワーズだったが、娯楽やそのほかの番組も含めると、首位に来たのはサッカー番組の解説者ゲーリー・リネカで、金額は135万ポンド(約2億6900万円)。次が複数のラジオ番組の司会者を務めるゾーイ・ボール(95万ポンド、約1億8900万円)。次がエドワーズ。

上位10人のうち、男性が6人、女性が4人である。

リストには入っていないが、巨額報酬を得ていると目される何人もの著名タレントがいる。個人ではなく、会社が報酬を受け取る形になっている、あるいはBBCの商業部門から収入を得るようにした場合は報酬が公表されない。職員やスターの報酬公開はあくまでも国内向けの放送・配信を担当する公共サービス部門に関わる場合だけだ。

一方、経営陣の報酬はどうなのか。

トップのディレクター・ジェネラル(NHKの会長に相当)であるティム・デイビーは52万7000ポンド(約1億514万円)だった。

収入減で人員整理へ

BBCには国内の放送・配信活動を行う公共サービス部門と海外向け放送・配信、放送権販売などの商業部門からの収入がある。「BBCグループ」としての収入は6%減の54億ポンド(約1兆774億円)だった。

このうち、受信料収入は37億ポンド(約7373億円)で、前年度より2%減。受信料収入を払う世帯が50万戸も減っていた。

前保守党政権によって、BBCの受信料の金額は2年間凍結することになっている。現在は年間で169.50ポンド(約3万3778円)だ。高インフレが続く英国で、凍結は非常に厳しく、実質的には収入が減る構造になっている。

そこで、「今後3年間で、毎年5%の収入増」を目指し、人員整理を断行する予定だ。デイビーによれば、ネットで約50の職を削減する予定だという。これがBBCの報道部門に何らかの影響があるのかどうかについては語らなかった。

以下は24日付けの朝刊無料紙「メトロ」の表紙。BBCのボスが「『ストリクトリー』を中止するかだって?」という問いに、「そんなことはない(no chance)」と言ったということを伝えた。ここで、chanceとダンスの「chachacha」をかけた。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2024年7月25日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。