トランプ前大統領都テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による、共和党支持者にとっては夢の、民主党にとっては悪夢のインタビューが8月12日に実現しました。
日本時間の午前9時開始の予定が、マスク氏いわく大規模DDoS攻撃に直面し40分ほど遅れて開始。78歳のトランプ氏と53歳のマスク氏の対談は、約2時間に及びました。ロイターが「取り留めなく続く(rambling)」と表現したように、話があちこちに飛ぶ場面も。それだけ、臨場感に溢れた応酬だったとも言えます。
画像:主要メディアのヘッドラインは、好意的でない内容が並ぶ
(出所:Autism Capital/X)
インタビュー最初のトピックはもちろん、7月13日の暗殺未遂事件です。トランプ氏は「気持ちの良いものではなかった(it was not pleasant)」と振り返りつつ、シークレットサービスだけでなく観衆にも感謝の意を表明。確かに、銃撃事件が発生したにもかかわらず、観衆は混乱して走り出すことはなく冷静でした。トランプ氏が指摘したように、人々が出口に殺到していたら、将棋倒しになっていたリスクは否定できないだけに、そこはさすが銃社会に生きるアメリカ人といったところでしょう。
いざ米大統領選に話題が移ると、やれハリス氏は無能だとかフェイクだとかトランプ氏の口から罵詈雑言が飛び出すわけですが、2時間に及ぶインタビューでの主なポイントは以下の3つです。
・トランプ氏は世界の安全保障に関心、FOXニュースなどで明らかにしたように「温暖化(global warming)」より、「核の脅威(nuclear warming)」が地球上で最大の脅威と指摘。中国やロシア、北朝鮮が核で協力関係を深めつつあるとし、特に中ロの接近を食い止める必要があると主張。
・トランプ氏は、生成AIを含め米国内で高まる電力需要に備える必要ありと発言。特に生成AIについては、中国との競争に打ち勝つ必要性を強調。
・トランプ氏とマスク氏の共通認識は、主に①不法移民の取り締まり強化、②インフレ抑制、政府支出の削減と税金の適切な使用を保証する政府効率化委員会の設置(トランプ氏は政府支出の削減には具体策について言及せず、政府効率化委員会にはマスク氏が参画する意志を示す)、③医薬品を始めとした規制緩和ーーの3つ。
一方で、気候変動対策については意見の相違を確認しました。トランプ氏は化石燃料の重要性と、常套文句の「石油の大量生産(drill baby drill)」を繰り返します。マスク氏は反論せず、「石油・ガス産業を軽視すべきではないと思う」とし、経済はそうしたエネルギー源に依存しているとも発言。ただし、環境汚染のために米国が「より持続可能な経済」に移行することを望むと言及、「最終的には呼吸するのも不快になる」とも付け加え、一石を投じました。
個人的には、原発をめぐってヒートアップした議論が印象的でしたね。マスク氏が太陽光発電以外に原発の利用を検討すべきとの議論するなか、トランプ氏はチェルノブイリや福島での原発事故を例に挙げ「2000年はその土地で暮らせない」と疑問を呈した上で、「原発にはブランディングの問題がある」と消極姿勢を覗かせたのです。マスク氏はすかさず「そんなことはない、日本を訪れた時、福島で育った新鮮な野菜や果物を食べたんだ、それが証左だよ」と、真っ向からトランプ氏の意見を否定。これを受けてトランプ氏は「最近調子が良くないんじゃないか…いやジョークだよ」と日本人の心情を逆なでする言葉を放ったのですが、マスク氏はそれでもクールに受け止め「人々が思うほど(原発は)恐ろしいものではないよ」とかわしていたのが印象的でした。
少し脱線すると、マスク氏は2011年7月に福島県相馬市を訪れています。その際、太陽光パネルを寄贈していたんですね。日本の人口減少を憂れう投稿が多いのも、単にXのアクティブ・ユーザー数が国別で上位なだけではなく、日本への思い入れもあるのでしょう。
その他、マスク氏は地下を走る真空チューブ鉄道「ハイパーループ」構想を模索していただけに、高速鉄道への関心も示します。トランプ氏も「新幹線(bullet train)は快適だよね」とまんざらでもなかった様子なので、仮に再選するならば、少なくともNY―DC間に日本の新幹線を導入してくれればと願わずにはいられません…。
さて今回のインタビュー、参加者は120万人を突破していました。しかし、マスク氏のXでの投稿によれば、何と閲覧数は10億人を突破したというではありませんか!
画像:マスク氏、関連投稿を含め閲覧数は10億人超えとコメント
(出所:Elon Musk/X)
当然、第3者が確認した数字ではありませんから、鵜呑みにしてはいけません。ただ、インタビュー開始時にシステム障害に見舞われたとはいえ、100万人超えの参加者が可能であることが判明したわけです。ちなみに、1-3月期の各ネットワーク局のプライムタイム平均視聴者数はFOXニュースが1位で206.7万人、2位はMSNBCで125.3万人、3位のCNNになると59.4万人とグッと減少し、トランプ氏とマスク氏のインタビュー以下に。つまり、Xはメディアを介さず、独自のコンテンツの配信が可能であることを見せつけたと言えます。
その意味で、今回のインタビューの敗者は既存メディアなのかもしれません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2024年8月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。