東独州議会選とAfDのヘッケ氏の動向

ショルツ現政権の行方に大きな影響を与えることが予想される東独3州の州議会選挙が9月に入ると直ぐ実施される。1日はザクセン州とテューリンゲン州の両州議会選が、同月22日はブランデンブルク州議会選がそれぞれ行われる。

AfDの思想的リーダーの1人、テュ―リンゲン州のビョルン・ヘッケ氏 Wikipediaより

複数の世論調査によると、ショルツ政権の与党3政党、社会民主党(SPD)、「緑の党」、自由民主党(FDP)は歴史的な惨敗が予想されている一方、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は両州で躍進し、ザクセン州では「キリスト教民主同盟」(CDU)を抜き、テューリンゲン州では左翼党に代わって第一党の座を狙う勢いを見せている。また、左翼党から離脱して新党を結成した左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)が2桁の得票率の獲得を目指している。2025年予算問題で政権内の対立を暴露され、不法移民対策で効果的な政策を打ち出すことが出来ずに批判の声が高まっているショルツ政権の与党3党への風当たりは強く、東独州議会選の結果次第では連邦議会の早期選挙実施を求める声がさらに強まることが予想される。

【ザクセン州議会選】
人口約415万人で連邦16州の中で第6位の人口を有するザクセン州(州都ドレスデン)では前回の州議会選(定数119人、2019年9月実施)でCDUがトップでSPDと連立を組み、クレッチマー政権を樹立したが、現在の世論調査ではAfDがリードしている。ただし、AfDが第一党に躍進したとしても、他の政党がAfDとの連立を拒否している以上、選挙後の政権発足が難航することは必至だ。

AfDは連邦政府の政策、特に移民問題や経済問題に対する不満を吸収して支持を伸ばしている。ザクセン州では強い支持を得ていたCDUはAfDの躍進を受け、支持基盤を維持するのに苦労している。一方、SPD、緑の党、FDPはさらに厳しい状況下にあり、前回の州議会選で議席獲得に必要な得票率5%の壁を越えることが出来なかったFDPは今回も5%のハードルをクリアできない可能性が高い。

【テューリンゲン州議会選】
テューリンゲン州の人口は約233万人、連邦州第12位、州都はエアフルトだ。前回の州議会選(定数90)では左翼党が第一党で同党とSPD、緑の党の3党から成るラメロウ現連立政権が発足した。

同州でもAfDが世論調査で約30%の支持を得ており、最大の政党となる見込みだ。それを追ってCDUが約22%で続いている。歴史的に強い支持を得ていた左翼党は新党のBSWの出現で大幅な支持低下に直面している。SPDと緑の党は州議会に入るための5%の壁を超えられるかどうかが不透明な状況だ。現在の左翼党、SPD、緑の党の連立政権が過半数を維持することは難しい。

両州ともAfDの躍進が予想されている。その背後には、停滞する国民経済、不法移民の増加などに対するショルツ連邦政権への不満がある。ドイツ東部でAfDが更なる躍進を続けていくならば、ドイツの政治情勢に大きな影響を与えることは必至だ。

ちなみに、東西両ドイツの再統一から30年以上が経過したが、東独と西独では依然、経済的、政治的な格差がある。特に経済的格差は大きい。例えば、東独の労働者の平均賃金は西独のそれと比較すると約85%だ。ドイツの再統一後、共産党政権下にあった東独では国有企業が崩壊し、失業率が急増した。また、産業インフラが整備され、経済水準の高い西独に若い東独国民が移住する現象が続いてきた。その結果、東独では人口減少、高齢化が深刻となっている。

東独国民は「われわれは2等国民だ」と自嘲することがある。統一後も東西間には「心の壁」とも呼ばれる心理的な分断が社会的な統合を妨げているといわれてきた。これが、東独の住民が政治的に極端な選択肢、AfD支持に走る要因の一つとなっているというのだ。

今回の州議会選で注目されるのは、AfDの思想の核といわれるテューリンゲン州のビョルン・ヘッケ氏の動向だ。このコラム欄でも数回紹介したが、ヘッケ氏は連邦憲法擁護庁(BfV)からも危険人物として監視対象となっている(「『極右』政党という呼称は正しいか」2024年2月2日参考)。

ヘッケ氏は国家社会主義の言葉を彷彿させるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張している。ドイツの基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそれを認めていない。単なる外国人排斥政策だけではない。反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜している。彼は過去、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼び、ドイツの「民族的再生」を強調し、移民や多文化主義に対して強く反対してきた。また、ドイツの過去に対する悔恨を「過度なもの」として捉えている。通称、歴史修正主義者だ。

ヘッケ氏の存在は、AfDが単なる不満票、抗議票を集める野党勢力ではないことを示している。1日のテューリンゲン州の投票結果が注目される所以だ。

ビョルン・ヘッケ氏インスタグラムより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。